イナズマイレブン

□失恋ラプンツェル
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「うーん、そろそろ切らなきゃなぁ・・・」
 朝練の為、少し早い時間に部室を訪れると、鏡と睨めっこする少女に出くわした。
「空野さん、早いね」
「あ、霧野先輩。お早うございます!」
「何してるの?」
「えっと、ちょっと髪が伸びてきたので、首に当たって気になるかなーって」
「俺ので良かったら、ゴム貸してあげようか?」
「ほんとですか? ありがとうございます」
 鞄から予備のヘアゴムを取り出して、差し出された細い掌に載せようとして、辞めた。
「良いよ」
「え?」
「俺が結んであげる」

「空野さん、髪伸ばさないの?」
「はい。もうずっと短くしてますし」
「折角綺麗なのに、勿体無いなぁ」
「あはは、ありがとうございます。霧野先輩の髪も綺麗なストレートですよね」
 まぁね。そこそこ手間隙かけて手入れしてるし。

「私、男の子になりたかったんです」
 ぽつりと、彼女は呟いた。背後の俺からではその表情は見えない。
「・・・ふぅん?」
「天馬って転校生だったから、その所為でちょっと苛められてた時期があって」
 予想はしていたものの、飛び出した『彼』の名前に微かに鼓動が跳ねる。
「だから、助けたかったというか、外見だけでも、女々しいのが嫌で」
 そうして彼女は天馬を守ろうと、男の子達に、その細い体躯で立ち向かったのだ。
「まぁ、結局天馬は別に大丈夫っていうか・・・。あんまり気にしてなかったみたいですけど」
 ああ、やっぱり彼は昔から彼なんだね。
 誰に評価されずとも、自分の世界で、自分が戦うべきと判断したものとだけ戦っていたんだね。
「そう言えば、その頃に髪型とかもからかわれてたから、天馬、先輩みたいな髪が羨ましいって言ってました」
「・・・ああ、何か、俺も聞いたよ」
 何時だったか、2人きりになった部室で彼は言ったのだ。

『霧野先輩の髪って、凄い真っ直ぐで綺麗ですよねー』
『・・・そう、かな。俺は天馬の髪、格好良いと思うけど』
『そんな事無いですよ。昔は『天パ』とかって、すっごいからかわれたんですから』
 憮然として言った彼の手が前触れ無く俺に伸びて、瞬間周囲の音が遠ざかる。ああもう煩い俺の心臓。
『さらさらで、真っ直ぐで。先輩、葵に似てますよね。髪質』
 葵は、短いからあんまり目立たないけど。さらりと告げられる。
『それに2人共、優しいし。気が利くし。性格も似てる気がします』
『似てる・・・かなぁ?』
『はい』
 天馬は笑って、幼馴染の少女を讃える。
 優しい事。気が利く事。髪が綺麗な事。目立たないというそれを、けれど君は知っているのだ。

「霧野先輩?」
「あ・・・、御免。出来たよ」
 固まっていた手を下ろす。指先に絡んだ髪がさらりと解けた。

 どうしたらお姫様みたいになれるだろうか。
 どうしたら王子様に見出して貰えるだろうか。
 どうしたら俺に似合うだろうか。可愛く見えるだろうか。庇護を誘えるだろうか。

 小学3年生の時に鏡と向き合って、結果、俺は好きでもない長髪を選択した。
 煩わしくても、からかわれても、手入れが面倒でも、いつか誰かに讃えられ守ってもらえるように、と。
 けれど、本当は。

 王子を守ろうと綺麗だった髪なんか切り落として立ちはだかった彼女のそれこそが、讃えられるべきものだったのだ。

「先輩、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「うーん。でもやっぱりこの長さじゃ、先輩みたいに綺麗にはなりませんね」
 立ち上がった空野さんの首元で、俺と同じ位置で2つに縛った髪が揺れた。
 似ている。何て、どこを見て言っているのだろう。

 いっそ、あのまま髪引き千切ってやろうかなんて。

( 全然似てないのになぁ・・・ )


 硝さんよりリク頂いた『天蘭、天葵前提の蘭丸と葵』。
 うちの蘭ちゃんにとって女の子っていうのは、風丸さんにとってのそれ以上に無視出来ない存在だろうなと思います。
 まがいものでも良いからと頑張って可愛くして来た自分よりも、可愛さ何か二の次の葵ちゃんが選ばれるっていうのはぐさっといきそう。

Title by melancholic

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