イナズマイレブン
□未筆の恋
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気持ちはいつも同じ。
初めて筆を取った日もそうだった。
手元に沢山あると分かっている今でも変わらない。
出すつもりで書いている。
届けるつもりで書いている。
でも、いっぱいの引き出しが現実。
所属チームの届け先が分からないから、というのは本当ででも全てではない。
だって調べる手段なんて幾らでもあって、その気になれば今日中に突き止めることだって出来るだろうから。そうでなくても『彼女』に預けさえすれば、きっと夫に手渡してくれるだろう。
居場所を突き止めて、そこへ宛てて出して、そうして何も無かったら私は悲しいだろうからというのも本当でだけどやっぱり一部でしかない。
なぜなら私は返事が欲しいとしたためている訳ではないのだ。
まだ身長が伸びているみたい。
高校を首席で卒業出来そうです。
カレーライスを作れるようになりました。
雷門中の理事長を就任する事になりました。
伸ばしっ放しだった髪の毛をばっさり切りました。
結婚が、決まりました。
出すつもりで書いてでも出してない理由は分からない。
私の気持ちなんて私にしか分からないだろうから誰にも分からない。
もしかするとその『彼』こそ言い当ててしまうかも知れないけれどそれが本当に当たっているかは分からないから分からない。
こんな『なんとなく』でしかない現状はだから分からないのか、そもそも理由なんてものはないのかも知れなく。
何にせよ可能性だ。
いつか1通くらいは出せるかも知れないし、
いつか再会した時にこんなこともあったと笑えるかも知れないし、
いつか私が死んでから誰かが見付けて彼に届けてくれるかも知れない。
なんて、殆どありもしないいつかの可能性。
そう考えたことを今日は書こうかなと決めて、淡い橙の便箋を取り出す。
何かがあって、或いは何かを思って便箋を取り出し、
丁寧に記して、或いは乱暴に書き殴って二つ折りにして、
封筒に入れると半分諦めたような気持ちで名前を書く。
よくよく考えてみると、私は封筒の口を閉じたことすらないような。
そうしてその封を手にしたとき『もう出せない』と思う私は引き出しを開けてまた1つ想いを重ねる。
円堂君へ
お久しぶりです。お元気ですか。
今どこで何をしていますか。私は―――・・・
それはいつも同じ書き出し。
もう何十にもなった封の中。
時には便箋ですらない紙に綴られた彼への手紙。私だけの世界。
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これ自体は映画ネタではないのですが、映画ネタの前日談になるのでこっちに。
→ 『静かに必然は降り積もる』