イナズマイレブン

□待望の戦い、望まぬ戦い
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 天馬が新たな仲間と世界へ旅立って、一週間ほど。
 その戦いについて雛乃や佐田とひとしきり意見を交わし、それでもまだ話し足りなかった僕は、土曜日に雷門中を訪れた。
 突然だったけど、皆キャプテン不在なりに練習してて、僕もちょっとだけ混ぜて貰った。それから皆とお喋りしてたら、霧野さんがそういえば、と言って、
 信助君が、もう3日程も部活を休んでいるのだと言った。

「信助君!」
「・・・あれ? 太陽?」
 雷門中の中を一周して、居ないのは知ってるけど天馬の家の方へ歩いてたら、私服で河川敷に座ってる小さな背中を見付けた。
「何してるの信助君、部活出なくて良いの?」
「うん。もう良い」
 内容の衝撃の割に、返事はあっさりしたものだった。
「良いって・・・」
「天馬が居ないならもう良いよ。ボクもうサッカーやめる」
 逆立った髪が揺れた。丸い双眸が不機嫌そうに細められる。
 てっきり日本代表に選ばれなくて一時的に落ち込んでいるのだろうと思った。僕だってそれなりに自信があったから、代表落ちの直後は結構落ち込んだし。
「・・・まだ分からないでしょ。諦めずに練習続けたら、きっと、」
「えー? そうかな」
 けれど、信助君はさして悔しそうな顔さえ見せなかった。
「元々さー、ボクはそんなにサッカー強い訳でも好きな訳でも無かったしね」
「でも、君だって時空最強イレブンの一員だったじゃないか」
 僕と共に三国志の英雄の力を受け入れた強者の称号。それ以上に、命がけで時を越えてサッカーを守ろうとした強い想いが、あった筈だと。

 信助君は暫く黙って僕を見上げた後に、小さく溜息を吐いた。
「ボクが好きなのはサッカーじゃなくて、天馬と一緒に頑張る事だったんだよ」
 だから苦しくても耐えられた。逆風の中で革命に挑んだ時。失われたサッカーを取り戻そうと別の時空で未来人と相対した時。
 億劫そうに立ち上がる。誰かに放置されていたサッカーボールを拾い上げた。
「ボクには無理だよ。天才の太陽でも無理だったのに」
 何が10年に1人の天才だろうか。君こそ才能の塊の癖に。
 大した練習もせず、途中でポジションを転向して、化身を発動し、あっさりと化身アームドまで成功させて。
「帰って来た時、天馬が悲しむよ」
「そうだったとして、僕の為に笑ってくれないならサッカー何か要らないよ」
 天馬が喜んでくれないセーブに何か意味があるの?
 天馬に責められない失点に何か問題があるの?

「大体天馬、ほんとに帰って来るのかな。日本中から集めたプレイヤー達の中から、ボクら何かのとこへ」
 日本一を勝ち取った後、沖縄で子供達にサッカーを教えていたのとは違う。高い次元で、天馬と共に闘う新しい仲間達。
「天馬の居ないサッカーじゃ楽しく無い。ボクはそんなの要らない」
「っ!」
 あんまり堪えかねて、信助君の手の中のボールを蹴り上げた。
 そのまま、彼目がけてシュートを叩き込む。
 信助君は僕の行動をある程度予測していたみたいで、右足を軸に半回転して、がっちりとボールを受け止めた。
「・・・君が病気になれば良かったのに」
 病気の辛さを知る僕だから出た言葉で、僕だけは言ってはいけない暴言だった。
 でも、それくらい、信助君の言葉は許し難かったんだ。
「そしたら天馬は、心配して帰って来てくれるかなあ」
 ねえ太陽、どう思う? 丸い瞳が、試すように僕を写した。


 噛み合って無い三国志コンビ。
 あーほんと信助来てくれないのかな・・・。

Title by 沈黙夜宮

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