イナズマイレブン
□君がいた物語
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「・・・あれ?」
最初は小さな違和感だった。
サッカー協会のデータベース。キラード博士の集めた古い記録。王牙学園から押収された資料。
もう飽く程に読み返したそれを、それでも新たな発見を求めて見返していた。
その、『円堂守』の中学生の頃の記録が、上手く読めない。
データの読み込みエラーであったり、突然の文字化けであったり。アナログの記録の方も、不自然な掠れや汚ればかりが目について上手く読めない。
「なんだろ・・・」
不思議と、高校生以降の記録には異常は無かった。
「ねぇキラード博士、どうなってんの?」
「そうですね・・・うーん、まあ、調べてみます。今日はもう帰りなさい。カノン」
博士は少し考え込んで、曖昧に笑った。
結果はいつまで経っても教えてくれなかった。
一週間程が経って。
「・・・フィフスセクター?」
俺達から見て72年前に現れた、『サッカー管理組織』。勝敗指示。シード。
嘘だ。こんなもの、前に見た時は無かった筈だ。
それに、ひいじいちゃんも豪炎寺さんも怪我でプロチームを退いたなんていうのも、初めて見る記録だった。見逃す筈が無い。
引き換えのように、中学時代の記録は問題無く閲覧できるようになっていた。
「・・・バダップは、どう思う?」
「分からない。過去に介入したのは俺達が初めてだ。結果は、誰にも断定出来ない」
だが、と、目を伏せる。
「恐らく、古い年代から順に、改変の影響が出て来ている」
平坦な声で呟かれたのは、俺が思い至ったのと同じ結論だった。
きっと、キラード博士だって気付いてる。
過去が変わり、未来が変わる。
未来を生きる俺達にとって、それのどれ程恐ろしい。
「・・・今日は、帰るよ」
「ああ。俺も、そうしよう」
( ・・・あの建物、あんな形だったっけ )
どこか、街全体が余所余所しく感じた。
改変の影響が、『変化』が、波のように追いかけて来る。
「・・・っ、」
余りの心細さに、膝を折った。
腕に付けたモバイル端末を開いて、保存していたひいじいちゃんの写真を呼び出す。
それらにさえ、どうしようもなく違和感を感じた。
ひいじいちゃんは俺の存在を知った。王牙学園の存在を知った。サッカーが、世界を望まない方に変えてしまった事を知った。
彼はきっと行動しただろう。未来の為に。俺の為に。
『こんな世界』に、ならないように。
「おい、大丈夫か?」
「バダップ・・・」
見上げた先、紅色の瞳が、頼り無く揺れた。
沈黙。
「・・・俺を、知っているのか?」
空気が、凍った。
・・・ああ。
嗚呼!!
もう、駄目だ。
「・・・ううん、ありがと。大丈夫」
「そう、か」
あっさりと、バダップは俺を追い越して行った。
軍人には、ならなかったのだろうか。
サッカーは、やってるんだろうか。
幸せ、なのだろうか。
呼び出したままだったアルバムのデータがスライドされる。
暮れゆく世界の中で、真昼の写真はやたら眩しい。
それは、
ひいじいちゃんの、結婚式の写真だった。
23歳。一番力があった頃のひいじいちゃんと、祝福する仲間達。そしてひいじいちゃんの隣で穏やかに微笑む黒髪の。
「・・・ひいばあちゃん」
円堂 守、円堂 ■
データに添えられた筈の、花嫁の名前は読めなかった。
「あぁ、そっか」
『ここ』が、変わるのか。
「・・・ごめんね」
ごめんなさい。ひいばあちゃん。
貴女の幸せは、消えてしまうよ。
王牙学園の所為だろうか。俺の所為だろうか。
見下ろした写真が涙の所為だけではなくぼやけて、画が変わって行く。ひいじいちゃんと並んだ女性が別人に変わる。
けれど、その背後に立ち位置を変えた、曾祖母、だった筈の、秋が、本当に本当に、幸せそうに笑って、
( あ、ぁ、 )
気付いて、しまった。
彼女は、この未来こそを望んでいたのだ。
自身が恋破れる結末にこそ、焦がれていたのだ。
きっと最初から、俺の存在は誰にとってもイレギュラーでしか無かった。
( 良かった )
ねえ、ひいじいちゃん、ひいばあちゃん、そして、円堂夏未。
貴方達の世界は、俺を犠牲に進む過去だよ。
だから俺の分まで、お願いだから幸せに。
「君、矢張りどこかで・・・」
少年を探して振り返ったバダップの言葉が途切れる。
視線の先には、幸せそうな夫婦の写真が一枚投影されているだけだった。
もう誰も居なかった。
+
『死んだあのコ』の80年後サイド。カノンばっかり可哀想ですいません。円夏が絡むと秋ちゃん結構酷い事できると思ってます。
でもフェイの言う「パラレルワールド化した世界はやがて本筋を残して消失」というあの設定すら、パラレルワールドのうちの1つの世界の話なのではとか。
タイトルはSee-Sawの曲名から。