サンデー系
□晴れ時計
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『あなたいつか、うずめの為に命を落とす』
未だに、その予言は俺を縛り続けている。
はっ敵意!
思って、布団を捲りかけた時には既に相手は跳躍していて。
「蝶左! 起きてるか!?」
「ぐえっ」
腹に突っ込んできた塊を押し退け、今度こそ体を起こす。
「揚羽、お前もうちょっと手加減するワケ」
あと父親を呼び捨てるな。
揚羽の力は強い。
葦原の血が、半分混ざっているからだ。
糸目達と宝を巡る旅の終わり。俺は最終決戦からハブられ、外から山肌をひたすら掘り進むという地味かつ重要な働きを全うして。
どうにか、俺も烏頭目達も生き残り、烏頭目の故郷に里を整備して、散り散りになった葦原の民を探し出した。漸く里も形になって来て、手順さえ間違わなければ国の認可も得られるだろう所まで漕ぎつけた。
その初期から手を貸してくれた、烏頭目が里を空ける時には用心棒めいた事もやっている女が居る。
強い男が好きなのだと言うその女は、彼女自身にさえ腕力では到底及ばない俺に何でか目を付けたらしかった。
烏頭目にはみなもがくっついているし、あれほど無茶苦茶な奴は御免だと言っていたからそれは心から同意。揚羽にも早く分かって欲しい。
「どうしたワケ? まだ暗いじゃねーか」
「あのね、明け方に流れ星が見えるかも知れないんだって! うずめも見に行くって!」
「あー、そう言えばみなもがそんな事言ってたような」
昨夜、夜空を見上げもせず少女は予言した。
いつか俺に、烏頭目の為に命を落とすと呟いたように。
その後の旅の中、仲間を亡くし、俺も烏頭目も何度も死にかけ、それでもしぶとく生き延びて。
結果、俺の死の影は去ったと。予言は回避されたと言う。
しかしみなもの予言の精度はどうあれ俺は、
いつかは、烏頭目の為に死ぬしかないのだ。
だって彼の為に生きているのだから。
妻も、娘も、欲しい等と思った事はない。
父親の罪の所為で散々鬱屈する羽目になった俺は、家族なんて御免だと思ってたし、そんな俺に、烏頭目とみなもがあるのだから充分だった。
けれどただ、丁度良いかも知れないなと、ふと思ったのだ。
俺なんかには無理があっても、烏頭目にひとつの正しい生き方を、幸福の形を、見せておくのも良いと思った。逆に、そういう風にしか、思えなかった。
そして彼女は、きっとそれも分かっている。本当に、奇跡のように都合の良い女だった。
それから沢山の時間と空間を共有して、刺青を見せても平気にもなった。彼女の事も、揚羽の事も、有り難いし、申し訳ないし、大切だと、思っている。
それでも。
彼女達でさえ、俺を止める事はできないだろう。
死の宣告を受けて尚、否、受けたからこそ、俺が烏頭目の傍に居る事を辞められなかったように。
「あっ蝶左! お前も終世見に来たのかー」
「流星な」
「うずめ! 一緒に見よー!!」
揚羽が飛び付いて、隣に居たみなもが眉を寄せる。
随分強固になった幸福の光景に目を細めた。
いつか烏頭目に、本当に俺が必要なくなったなら。
彼が俺の死を、笑って見送れる程に正しく強くなったなら。
その時には、きっと。
+
あんまり意図せず気持ち悪めな話になってしまった。
飯沼先生割とBLにもGLにも寛大な方だと思ってるんですが、彼だけ急に娘を与えられたのはどういう意図だったんだろうか・・・。
哀しい話は消えなくても 新しい今日のはじまり 迎えるよ
会いにゆくよどこにいても 君がまだ望むなら
また生まれたての朝日あびて こぼれそうな思い
それは晴れた時計
by 晴れ時計 (初出:19thシングル『晴れ時計』)