イナズマイレブン

□未敗北宣言
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 ぼろり、

 あまりに唐突だったのでぎょっとした。
 俺がビビってる間にもガゼルの目からはぼろぼろと涙が伝う。

 ダイヤモンドダストが雷門と引き分け、ガイアがジェネシスに昇格し、苦し紛れに練り上げたネオジェネシス計画はグランの不機嫌1つに破綻した。
 それからダイヤモンドダスト、プロミネンス両チームは謹慎を食らい、食らうまでもなく各寮に閉じ込められている。カオスに加担しなかった奴にはとんだとばっちりだ。
 でも慌ただしい処置だったのと、何だかんだ俺達は特権階級なので、どさくさに俺はガゼルをプロミネンス寮に引っ張り込んで、無言で塞ぎ込むガゼルにベッドを譲り、俺は別段普段通りテレビを見たり雑誌を読んだりと適当に過ごしていた。
 日に3度支給される1人分の食事の、夕食と朝食に付いてたスープだけはせめてとガゼルを抑え込んで無理矢理飲み込ませた。暴れるなり吐くなりするかと思ったが、ガゼルは食事も消化吸収もどうやら問題無く行っているらしかった。見かけに反して頑丈な奴め。
 消化の良さそうな物を譲った所為もあって、結局殆ど戻してしまった俺の方が余程参っているのではないかと思うとちょっと自分が不憫だった。
 そんなこんなで丸1日人形みたいなガゼルの世話を焼いていたのだが彼の意識レベルは一向に浮上せず、眠ることすらなくひたすらにぼんやりしたままだった。眠れないのは俺もだったし、最悪自殺未遂まで危惧した後だったから状況程の危機感は無かったけど。

 ついさっき、ジェネシスと雷門が試合を始める、とアナウンスが入った。
 近く試合をするらしいことはグランの口ぶりで分かっていた。勿論非常に気にはなったが、どうせ一方的な試合だろうし、ガゼルの精神衛生に良い訳がないので見るのは辞めておこうとテレビを消して読み終えた雑誌の続きを探そうとして、唐突に泣き出したガゼルに気付いた。

「お、い、どうしたガゼル。何泣いてんだよ」
「悔しい」
 ぽつと、ガゼルは呟いた。1日以上ぶりの発言だったから涙の所為だけでなく声は掠れている。
「ああ、俺達、結局ジェネシスには、」
「グランは勝てない」
「何・・・?」
 漸く光の戻った目は、しかし何処にも焦点が合っていない。
「そんな、気がするんだ。円堂守に、あいつは勝てない。きっと、お父様の望みは全部終わる」
「・・・」
 ガゼルがそんなような事を言うのは酷く珍しいことであった。否、初めてではなかろうか。
「・・・お前がそう思うんなら、そうかもな」
 いつもガゼルが自分でやってるみたいに指を通して髪を梳いてみた。こいつ電波塔だから、俺には分かんない何かが分かるのかも知れない。
 でも別にもう、どうなっても良い。こいつを泣かす物何か全部無くなってしまえ。
「私達、まだ負けてないのに、終わってしまう」
 涙は止まらない。
「ダイヤモンドダストも、カオスも、まだ負けてないのに、グランにも、お父様にも認められないまま、無くなってしまう」
「・・・ああそっか。うん。悔しいよなぁ」
 いつだって誰かに認めて貰う為に頑張って来たこいつだから。
 俺だって悔しいさ。プロミネンスは戦ってもないし、カオスは負けてない。
「悔しいよバーン、私達、終わってしまう」
「・・・そうだな」
 ガゼルやグランはあんまり真っ直ぐだから気付かなかったけど、正直どうせ見えていた破綻だと思う。
 俺みたいにふっと気が散って周囲を見回した事のある奴には、結構綻びが見えてたんだ。
 それならそれで、行けるとこまで行こうって、思ってたんだけど。こんな半端に終わる何て。
 でも俺は結構満足してるんだ。
 あの混成チームで、お前と一緒にボール蹴って、2人なら負けないって、他でもない俺達が認めて。

 なぁ、俺は、お前さえ認めてくれたらそれで良いのだけど。
 お前の強さ、美しさ、ひたむきさ、
 その裏の脆さ、一途さ、不器用ささえも、

 俺が認めてやったんじゃ、駄目か、なんて。

 俺もベッドに登って、伸ばした膝の上にガゼルを引っ張り上げた。
 律儀に捲くられた部屋着の袖から細い肩が出ているのを抱き締める。
「なぁ、終わったら、もう一回始めようぜ」
「もういっかい・・・?」
 ことと首を預け、寝言のように曖昧な発音でガゼルが繰り返した。
「全部が終わって、バーンとガゼルが無くなったら、」
「ああ・・・、うん、そうだな・・・」
 はるや。最後の言葉は音にならず空気に溶けた。


 混沌≧創世記>>>暗黒皇帝sに見えるんですがという話(・・・)。
 バンガゼはラブラブだけど恋愛より育児か介護に近いと思う。

363 始まったからには何時か終わるのだろう、けれど終われば始まるのだろう

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