イナズマイレブン

□夢の続きを
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 ふらり、

「あ、」

 どさっ、

「ガゼル様っ!?」
 シュートを撃とうと軸足を踏み込んだ体制から、支える暇もなくガゼルはそのままの勢いでフィールドへと倒れ込んだ。
 一番近くに居たリオーネが悲鳴じみた声を上げ、他のダイヤモンドダストのメンバー達も口々にガゼルを呼びながらそちらへ駆け寄る。今しがた試合をやっていたプロミネンスの奴らも困惑した表情を俺に向けた。
「ガゼル様、しっかりして下さい!」
 リオーネの声が途切れない中、ベルガの巨体を押し退け、ガゼルの姿を確認する。
 顔色が悪く、呼吸は浅いが早い。典型的な熱失神だろう。
「あー・・・どうすっかな・・・。医務室担ぎ込んだら嫌がるだろうし、団欒室にでも寝かしとくか」
 ガゼルの隣にしゃがみ込み、ダイヤモンドダストの奴らの視線を一身に受けながら判断を下す。
「じゃあ、私が運びます」
「や、ダイヤモンドダスト寮までだと遠いし、お前らプロミネンス寮のカードキーは持ってねぇだろ。・・・俺が運ぶ」
 つかお前じゃ持ち上がらねぇだろ。
 名乗りを上げたクララにひらひらと片手を閃かせるとぐっと言い澱んで目を伏せた。
「じゃあ、僕が行こうか?」
 引き下がったクララに代わって、歩み寄ったヒートが腕を差し出す。
「何でだよ。良いっつのこんくらい。どっちもキャプテン不在なら丁度フェアだし、そのまま10対10で続けてろ」
「あ、ああ・・・」
 歯切れ悪く背を向けたヒートがポジションへ戻ったのを見届けて、ガゼルを抱き上げる。
 うわ、軽。ほんのちょっとだけど俺より背高い癖に。普段何食ってんだこいつ。

「う・・・」
「お、大丈夫かよ」
 ソファへ寝かせた拍子に起こしたらしい。常以上にきつく眉間に皺を寄せるガゼルに、挑発めいた声をかけた。そのまま喧嘩になればこいつのプライドもそう傷付かずに済むだろう。
「・・・・・・はる、や・・・?」

 え?

「風介?」
 釣られて反射的にその名を呼んだ。
 ぼんやりとした定まらない焦点が、それでも確かに俺を捕らえて、俺が何か言わなければと口を開いた時には、ガゼルの意識は再び闇に沈んでいた。
「・・・晴矢、か」
 一転穏やかに眠るガゼルをぼんやりと見詰めながら口に出してみる。誰にも拾われない響きはただ空気に拡散して消えた。

『晴矢、はるや、』

 かつて、馬鹿みたいに繰り返し呼んでいた名前。それでも、もう忘れてしまったのだと、忘れたいと願っているのだと、勝手に思っていた。
 互いに力を手に入れ、プライドも無闇に高くなった今、ひたすら強敵を振る舞い、忌々しいライバルとして接する事が、最もガゼルの精神安定を量れると思っていたけれど。
 俺は、とんでもない勘違いをしていたのではないか?
 ガゼルは、俺にそうではない何かを、まだ求めているのではないのか?

「・・・バーン」
「え?」
 油断していた所に、幾分はっきりした声色が斜め下から投げられ、上擦った声が出た。
「私は、どうしたんだ、一体」
「あ・・・、ああ、お前倒れたんだよ。試合中に。熱中症だと思うけど」
「そう、か」
 時計を見るといつの間にか30分以上経っていた。もう試合は終わってしまっただろう。
「・・・戻るぞ。きっと、皆困っている」
「いや、俺がダイヤモンドダストにも指示出しとくから、お前は水分取って部屋帰れ」
 ふらりと半身を起こしたガゼルに、どうせ拒否されるだろうと思いつつ言ってみる。水分補給だけはどうにかしてさせなければと考えていると、分かった、と小さな呟きが届いた。
「へ?」
「・・・何だその顔は」
「いや、素直に聞くとは思わなかったから」
「私の身体の為だ。それに、今日は機嫌が良いから特別だ」
「ふぅん?」
 ぶっ倒れたのに?と言おうとして辞める。
「・・・夢見が、良かったからな」
「・・・」
 酷く久しい楽しそうな表情に何も言えないでいる間に、ガゼルは給湯室へと足を向ける。
「バーン」
「・・・あ?」
「決着は明日だ」
「おっしゃ、伝えとくぜ」
 応えて、グラウンドへ向けて踵を返す。

 近いうち、もう一度風介と呼んでやろうと心に決める。
 そうしたら、彼の夢の続きが始まるのかも知れない。


 ガゼルは晴矢と呼んで風介と呼ばれた事は夢だったと思ってます。
 昔に固執してるのはガゼルの方。バーンは今現在のガゼルを守る為なら何でも捨てられます。

226 夢のような奇跡

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