イナズマイレブン

□青い郵便屋さん
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 FFI日本代表候補の合宿所の玄関で、今は誰も居ないグラウンドを眺めていると、背後で扉が開く音がした。
「遅いぞ。客を待たせるな」
「御免、久しぶりだね。えっと・・・玲名」
 『どちら』で呼ぶか逡巡したのだろう。微かな間の後に、基山ヒロトは私の本名を呼んだ。

「で、どうしたの玲名、突然。何しに来たの?」
 彼とはエイリア学園崩壊以降、別々の施設へ引き取られたので、顔を合わせるのは3ヶ月以上ぶりだ。グランと、ウルビダと、呼び合っていたあの時以来の邂逅で、だから対応は互いに半端なものになる。
 先程ヒロトを呼びに行かせようと、通りかかった緑川リュウジを捕まえたら、彼は私をウルビダ様と呼んだ。それは、私が咄嗟に彼をレーゼと呼んでしまったからかも知れないが。
「・・・貴様ら、あと一週間もすれば、日本を離れるのだろう?」
「え? ああ、うん。・・・え、もしかして見送り?」
 少しだけ嬉しそうに首を傾げるその仕草は、グランには無かったものだった。
「ふん、そんな訳ないだろう。ただの使いだ」
「使い?」
「あいつらから、貴様にと」
 言って差し出した紙の束を見たヒロトは、わぁといかにも嬉しそうに受け取って、根室、紀伊、・・・と差し出し人を読み上げる。
 私と同じ施設に引き取られたかつてのチームメイト達は、私と違って今尚純粋にキャプテンとしてこいつを慕っているらしかった。態々激励の手紙なぞ書く程に。
「玲名のは無いんだ?」
「何故私が貴様に手紙を書かねばならんのだ」
「ふぅん。でも、郵送でも良いのに態々この為に来てくれたんだ? ありがとう玲名」
 にこり。撥ねた横髪がふわんと揺れる。
「馬鹿か。手紙を書かないならお前が持って行けと何故か強制されたんだ。誰が態々好き好んで貴様の顔なぞ、」
「玲名は相変わらず可愛いこと言わないねぇ」
 ヒロトはくすくすと楽しそうに笑う。
「は、何だお前可愛い方が良いのか」
 私に可愛さ何か求める方が間違いだろうがどう考えても。
「そりゃあ、だって折角女の子なのに」
 しかしヒロトはあっさりと言う。
「・・・あの円堂守とかいうのだって可愛くないだろうが」
 言ってやれば、ヒロトは切れ長の目を微かに見開いた。ふん、貴様は分かり易いんだ。
「玲名、何言ってるの?」
 とぼけたって無駄だ。貴様の想い人くらいお見通しなんだよ!
 少しは焦って困惑すればいい。自然口の端が吊り上がった。
 しかしヒロトは何故か憮然とした表情になりぐっと私に顔を寄せた。
「確かに円堂君は凄く凄く格好良いけど、でも彼にはああ見えて可愛い所も沢山あるんだよ?」
 箸の持ち方がちょっと変わってる所とか、笑うと少し肩が撥ねる所とか、これは見た訳じゃないけど、枕を抱えて寝てる事が多いらしい所とか・・・、ねぇ玲名聞いてる?
「・・・っ! うるさい! 私はもう帰る!!」
「もう、玲名、相変わらず怒ってばっかりだね」

 誰の所為だ!
 笑えば可愛いのに勿体無い。と続いた戯言は聞こえなかった事にする。


 一応ヒロト←ウルビダさん。
 自分は格好良い方だと思ってるから、格好良いのが好きだって言わせたかったウルビダさん。
 ・・・という言わないと分からない。

233 聞こえない振りをした

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