イナズマイレブン
□過ぎし日の私へ
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ホームセンターの自動ドアが開いて、両手に袋を提げて外へ歩み出る。
途端満ちる排気ガスの臭気に顔を顰めた。
「・・・あれ? お前ジェネシスの・・・えーと・・・」
横から掛けられた声は余りにも予想外のもので、瞬間空気の質何か吹っ飛んだ。気がした。
「え、円堂、守・・・」
うわ言のように名を呼べば、あ、そうだ、と彼は拳を打った。
「ウルビダだ。ウルビダ」
そんなカッコしてるから分かんなかったよ。久しぶりだな。元気だったか?デニムにTシャツの私に言った彼の方こそ初めて見る私服姿で、さらさらと気安く言葉を並べながら私へ歩み寄る。つい半歩後ずさった。
「買い物?」
「あ、ああ・・・」
見て分かれ節穴か。普段なら、例えば相手がヒロトとかなら幾らでも沸いて来る悪態は何故か喉を通らない。
「重そう。何?」
「・・・組み立て式のウッドラックとステップチェアだ」
「げ、ホントに重いんじゃん!」
重い重い言うな本当に重いんだぞ。私だって好きで買い出しに来た訳じゃない。
両手に改めてずしりと負荷が掛かった気がして、無意識に持ち直す。
「お前この辺住んでんの?」
「いや、電車だ。お前こそ稲妻町に住んでるんじゃなかったのか」
「うん。俺も電車。サポーター擦り切れちゃったから買い替え」
言って、彼はすぐ傍にある大型スポーツ用品店の袋を示した。
「そう、か」
「ん、」
「・・・」
突然差し出された掌の意味が分からなくて、暫しそのまま見詰める。察したらしい円堂が苦笑した。
「どっちが重いの? 駅まで持つよ」
「な・・・、え?」
困惑している間に、バラバラのウッドラックの入った袋は円堂に奪われていて(そっちの方が少し重い)、彼は駅へ先導して歩き出した。
「お、おい!」
慌ててその背を追って、善意からの行為に返せとも言えず、一歩後ろを付いて歩く。
「ウルビダはさ、」
首だけで振り向いた円堂はまたその名を呼んだ。
「今、どうしてんの?」
容易く、踏み込んだ訳ではない。軽い答えが返っては来ない事を、彼も分かっている。
「・・・お日さま園とは違う施設に、入る事になった。ヒロトはお日さま園に戻って、他の奴らも、また別の施設に入ったり、本当に一部は、これを機に引き取られて行ったり、16を超えてる奴は自活を始めたり・・・、」
警察に拘束されたり、した。
もう、宇宙人を演じていた頃にも、その前にも戻れない。お日さま園に戻ったとしても、そこにお父様はもう、いない。
「・・・そっか」
重く、呟いて、それから円堂は何も言わなかった。暫し間を置いて、話題を変える。
「ウルビダは、まだサッカーしてんの?」
また、だ。
私はもうウルビダじゃない。言いそうになって、飲み込んだ。
施設に居る他の子の物と混ざらないようにと、与えられた揃いのシンプルな鞄に刺繍した『YAGAMI』の糸を指先でなぞる。
もう今は、施設の皆も、偶に会うヒロトも、時折手紙をくれるお父様も、私を『玲名』と呼ぶ。それこそ、エイリア石を見付ける前みたいに、暖かに、柔らかに、その名を呼んでくれる。
「ああ、皆、下手をしたら研究所に居た時以上に没頭している」
中でもヒロトの打ち込みようは異常だ。大方こいつが別れ際にでも何か言ったのだろう。
「そっか、良かった」
ウルビダ、強いからな。
ぽつり。円堂は、本当に、本当に、嬉しそうに笑った。
誰かを倒す為に、何かを壊す為に、本当の名前を封じて、怒り以外の感情を忘れて、サッカーの力を磨いて、でも結局それは間違ってて、
『ウルビダ』は、何一つ報われる事がなかった可哀想で忌まわしい私だけれど、
お前がそう言ってくれるなら、きっと、生きた意味はあったのだと思う。
「円堂、お前は稲妻町だろう? 私は、反対だから」
券売機のボタンを指して、遠回しに荷物を返せと催促する。
「そっか。大丈夫か?」
「舐めるな」
言って、袋は私の手に戻って、7駅先の切符を買うとさっさと改札を通った。
「またな、ウルビダ」
「・・・ああ」
結局訂正出来なかった。ああ、礼も言ってない。
・・・まぁ、良いか。
どちらも次に、会った時で。
取り敢えず帰ったらヒロトに電話して存分に自慢してやろう。
+
円ウルが見たいという御意見頂いて書いてみました。本編の絡みが浅いので遠巻きに憧れてる感じで。
てか円堂が素で天然タラシになった。まぁあいつ公式だからしょうがないよね!
205 不幸中の幸い