Dunkelheit

□第U夜
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「……………ボス」

「何かな?ユノ」


 重たい空気の中、ユノはおずおずと切り出した。


「──私も此の時、何が有ったかは知っていますが、本当の処、どうなったのですか……」


 リールは其の場を和ませる様に、優しくユノに微笑み返し、皆を目線だけで見回し、手元に書類と共に置いてあるコーヒーを一口啜った。


「そうですね……ユノ、貴方はあの時、アイツに安全な所へ移す様に預けましたたから詳しい事は何も知らない筈ですね。
 まあ、良い機会でもあるし、聞かせてあげましょう。
 貴方達が来る前、──あの女との昔話を……」


 コーヒーに映った窓から射す一筋の光が、あの日の光景に重なった。

 不安げに此方を見詰めている皆に向かって、リールは其の昔に遭った事件を静かに語り出した。


「そう、あれは────…」





 暗闇の中で、鈍く光る時計塔。

 其の足下に群がる灯りに、リールは眼を細めた。

 ロンドン郊外のとあるホテル。
その最上階で、リールは窓辺に静かに佇んでいた。
部屋の灯りを全て消しているため、彼女の表情は良く判らないのだが、外からの光を反射し、まるで金属の様に見える其の瞳には、寒気すら覚える冷たいものが在った。

 実際、彼女が考えていたのはひどく現実離れした物騒な事で、例えば周囲に気付かれずピストルの引き金を引く事や、カーペットに血痕を残さない方法等、どれを取ってもましてや、人に言える様な事では無かった。


「──私があの方の元へ来て、もう14年か……」


 リールは過去色々な事情から、先代の所に4歳頃の時に引き取られていた。
そして、幼い頃から暗殺とは何たるかを生きて行くために叩き込まれて来た。
其の為何時も殺気をコントロールし、周囲に全く気配を悟らせず獲物に近付き始末する事も可能であった。
冷静沈着な彼女の殺し方は常に、彼等が苦痛を感じる暇も無く逝かせてやる事が出来る程の腕だった。

 今日の仕事も難無く終え、次の連絡を待っている其の時掛かって来たのは──…


「はい、リールです」



「──…首領(ボス)が御倒れになった」

「なっ──…!」

ブツッ


 其だけ言うと無線は突如途絶えた。

 リールは、ただ呆然と無線機を見つめた。
其の間1.03秒。しかしすぐに正気を取り戻し、何時もの彼女からは考えられない様な、端から視れば然程変化が無いが、それでも良く知る者にとっては、とても窺い知れぬ様な形相でホテルから跳び出して行った。


 ──何故なら、殺し屋にとって“倒れる”とは“死”を意とするからだ──




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