宝物

□予感の声
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ねえわかってるんだよ、しってるんだよ
貴方は、私がまだ気付いていないと、思っているの?


雨がしとしとと降っている。
いつもネオンで明るいこの街も今は暗く、人通りも少ない。

でも今の私たちにそんなことは関係ない。

二人の距離は見事に0センチ。
体温を、感じている。
べっしょりと濡れた髪が服が、皮膚に張りつく。
それは貴方が私を抱き締めてるからだけではない。

「…ツ、ナ」
「ごめん…」

彼のその声は消えそうだった。でも彼の存在を明白にするには十分な声だった。
嗚呼、貴方はもう何も言わせてはくれないんだね、耳を傾けてくれないんだね。
せめて、いってらっしゃいを言わせてくれてもいいのに。

だって私はこの日が来るってこと、ちゃんと、わかっていたんだ。
君と手を繋いだあのとき。
でもそれよりも私は貴方との時間を大切にしたくて、貴方が隣に居たときの景色、音、温もり、体の神経を研ぎ澄ませてすべてを焼き付けた。
この日が来ても淋しくないように。
だから、ずっとずっと長い時間、貴方と一緒だった気がするんだ。

ねえ、それなのに、なぜ、どうして──。

最後に投げ付けたかったそのコトバは雨と共に流されていった。

このまま、ずっとこのまま貴方を感じていたいのに。時間は全然、止まってくれない。
私の無力さに打ち拉がれる。

貴方の体が、私から徐々に離れていく。離れた隙間から冷たい風が通り抜けて。
私以外の温かさが感じられなくなった体はとても冷たく感じた。

最後にさよならというように貴方は、キスをくれた。

ねえ、いっとくけどこれが最後じゃないよ。
今、一区切りついただけ。

こんなに愛し合えた私たちはまた逢える。私はそう信じてる。

だから、

「さよならは言わせないから」

貴方の唇が離れた瞬間、目をばっちり合わせて言ってやった。
貴方は一瞬目を丸くしたあと、微笑んだ。


わかってるよ、貴方がこれから手の届かないところに行くって、知ってるよ。

だから忘れない、信じてる。

きみへとたどりつき、めぐりあう──暗闇さえも越えて、必ず。

君へ。



そして貴方は、居なくなった。




081130

Dear.穂詰

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君へ。/青木麻由子

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