title book
□最も忘れたくて、一番忘れたくない記憶
1ページ/1ページ
雲雀は抗争を一つ終わらせ、敵対マフィアを二つ潰し、報告をしようと本部へ帰った。しかし上司や同僚はまた群れていて、ここ数年で覚えた忍耐も我慢の限度で彼らを咬み殺して気晴らしに庭へやってきた。
っ…
ガサガサッ
くぅ…
雲雀が歩いていると、草木が激しく擦れる音とそれに混じり僅かな人の声が聞こえた。
森と称してもいいほど、ただっ広く緑が多いこの庭は最強を誇るマフィアの私有地。奥に行けば行くほど警備システムを施してるため身内でもあまり来ないこの場所。
そんな所から聞こえてきた声が気になり、進む方向を変える。
「君、何してるの?」
雲雀が見つけたのは横たわった少女。所々に傷がつき、周りを血が染め始め、顔も蒼白い。そのせいか少女の反応は遅く、ゆるゆると首と目を動かし雲雀を見上げた。雲雀も数歩前に出て、少女を見下ろす。
「ねえ、どうやって敷地内に入ったの?」
雲雀の問に少女は僅かに口を動かす。しかし声どころか音も聞こえず、雲雀は屈んで少女の口に近付き読唇術なり、音を聞くなりしよう屈もうとした。
ドガッ!
だが、いきなり雲雀は少女に腕を引っ張られ、少女の後ろにあった木に背中からぶつかり、そのまま押さえつけられた。少女とは思えない力の強さに雲雀の抵抗は意味を為さず、雲雀自身信じられなかった。
そんな雲雀を余所に少女は全身で雲雀を押さえ付けるように徐々に体を寄せ、顔を首筋に埋める。
「っ、!!」
少女の息を首筋に感じた途端に痛みが走った。少女が何をしているのか見たくても頭が邪魔で見えない。離そうとしても離れない。
そのうち痛みは薄れていき、変わりにジンと熱くなっていき、脈の音が妙に大きく聞こえ、何か電気のようなものが背中を走り始めた。その感覚に声をあげそうになり必死に堪えるが、僅かに洩れてしまう。
「っ……うっ、あぁっ」
一体どれくらいそうしていたのか、実際は数分足らずのことだが雲雀には倍以上に長く感じられる時間であり、そう思わずにはいられなかった。
首筋の感覚がなくなると同時にヌルリとした感覚がし、漸く少女が顔を上げる。
「ご馳走様」
舌をチロリと出し、先程の顔色が嘘のような笑顔で少女は言った。
最も忘れたくて、一番忘れたくない記憶
最悪な出会い
御戻りはこちら.