捧げ物

□優しい関係
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求愛―異性に愛情を求めること
生きとし生きるモノ全てに許された、本能的な衝動

それは夏を代表する彼らとて例外ではなかった。



その日は朝から暑かった。
太陽は容赦なく照りつけ大地を焦がす。風は大地の熱を纏い吹きつける。空はどこまでも抜けるように青く、絵に描いたような入道雲が広がる…。
そしてこの暑さを待っていましたとばかりに彼らは愛を求め叫ぶのだ。
あぁ…せめてもう少し静かに愛を求めあえないものなのだろうか…。
裸で水をかけあう童子達がうらやましい。


二人は今、この土地にあるという歌枕を目指して歩いている。
その二人にも夏の日差しは容赦がなかった。
ジリジリと肌は焼け、身体中から水分を奪っていく。汗に濡れた着物はぴったりと皮膚に張り付き、いっそう呼吸を苦しくさせた。身体が鉛のように重い…。
今、二人に許された日陰は己の笠の下だけだった。


日が真上に昇る頃、ようやく二人は森の中へと続く道に辿り着いた。
ここを行けば目的地はすぐである。芭蕉は少なからず安堵の表情を浮かべた。
しかし、二人の眼前に広がるのは自由奔放に伸びきった草花や剪定もされず重く垂れた草木の蔓、大小様々な石が転がり荒れた路面は、もはやケモノ道そのものであった。
他の道はないのかと辺りを見回してみたが、どうやら入り口はこの道一本だけのようである。あまり遅くなれば、帰ってこられるのは日暮れ近くになってしまうだろう。追い剥ぎにあう危険だってあった。
泣く泣く…いや、意を決して二人はこのケモノ道に足を踏み入れた。
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