小説

□言葉遊び
1ページ/1ページ

麗らかな午後の日差しの中、縁側で茶を飲んでいた芭蕉は、ふいに隣で本を読む曽良に言った。
「私が鳥になったら曽良くんどうする?」
「焼いて食べます」
「ひどっ!!そういうのじゃなくて…もし私が鳥になって曽良くんから離れていったらどうする?」
曽良はパタンと本を閉じ、暫く考えて答えた。
「芭蕉さんが鳥になったら、僕は木になって芭蕉さんが止まるのを待ちます」
「じゃあ私が魚になったら?」
「漁師になって芭蕉さんが網にかかるのを待ちます」
「じゃあ私が帆船になったら?」
「風になって芭蕉さんを好きな土地へ運びます」
「じゃあ私が花になったら?」
「庭師になって芭蕉さんに水をあげます」

「じゃあ…私が…私だったら…?」

そう尋ねると芭蕉はうつ向いた。茶を持つ手がかすかに震えている。それを見て曽良はそっと肩を抱いた。

「芭蕉さんが芭蕉さんなら、僕は河合曽良のままで貴方を抱きしめます」

それは小さな言葉遊び。愛しさを腕に込めて、曽良はもう一度強く芭蕉の肩を抱いた。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ