小説

□彼岸花
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二人の眼前には今、血の海が広がっている。
否、それは何処までも無数に咲き乱れる、紅色の彼岸花――


「うわぁ…凄い数だねぇ。ここまで沢山咲いていると、逆に圧倒されちゃうよね」

感嘆のため息を溢しつつ、その足はその紅へと進んでいく。
血の海へと足を踏み入れていく芭蕉を、曽良は遠方でただじっと見つめていた。

暫くすると芭蕉が戻ってきた。その手には一輪の彼岸花――。


「ねぇ曽良くん。彼岸花ってとっても綺麗だよね。特にこの鮮やかな紅が。
だけど…鮮やか過ぎて少し妖しいよね?」

手中の花をくるくると回しながら、芭蕉はクスクスと笑う。何処か淫猥なその笑みに、曽良の喉がゴクリと鳴った。

「どうしたんですか。芭蕉さん」
「何だか…この花は曽良くんに似合うよね。君のその白い肌に、この色はとても栄えるよ」

そう言って曽良の着物をはだけさせると芭蕉はその胸に花を押しつける。

「あぁ…やっぱり…とても良く似合うよ曽良くん…



もっと君に…咲かせて良いかな―――…?


答える間もなく芭蕉は、どこに隠していたのか、その小刀の切っ先を曽良の心臓の上に突き立て――そのままスッと横に切りつけた。

驚いて声も出ない曽良をよそに、芭蕉は自分がつけた傷口から流れ出る鮮血を見つめ、ほぅ…と小さなため息をつき、指でなぞり始めた。


「この彼岸花のように、君もまっ紅に染めたいな」


私の様にね―――?



花言葉…想うは貴方一人

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