小説

□証
1ページ/2ページ

蝋燭の炎がゆらりと揺らめく。その揺らめきは陽炎のように、重なりあう二つの影を障子に写し出した。影はやがて一つに混じり合い、そして溶ける。何かを押し殺すように隙間から吐息が漏れた。

曽良は今宵、何度目かわからない精を芭蕉の中に放つ。身体の奥を打ち抜かれる感覚に芭蕉は一際高い悲鳴をあげ、そして果てた。荒い息遣いが部屋の中を谺する。重なった二つの影は、そのまま湿った布団へと沈みこんだ。暗い部屋に静寂が訪れる―。


小さく身じろぎを一つする。曽良は重なったまま、一向に芭蕉から出ようとしなかった。
『重い―…』
結合部から漏れた体液が下肢を濡らす。それは汗と混じり、肌とシーツにペタリと張り付いた。
『何だよ…何時もは自分でさっさと片付けて寝ちゃうクセに…』
もう一度身じろぎを一つして、芭蕉は抗議の意を込め曽良を軽く睨んだ。

そこには、何時もと違う曽良がいた。静かな目でじっと芭蕉を見つめている。
芭蕉の胸がドキリと跳ねた。彼は今までこんな目で自分を見たことがあっただろうか…


「芭蕉さん―…」


掠れた声で曽良が芭蕉の名を呼ぶ。そんなことですら胸がドキドキと高鳴った。まるで初めて恋を知った少女の様に…。芭蕉は思わず抗議も忘れ、目を伏せた。
そんな芭蕉を見下ろし、息を一つ吐きながら静かに曽良は続けた。


「孕んで下さい―…」


僕の子を――
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ