献上品

□ここはオレの場所
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いきなりポツリポツリと話し始めた春吉の顔を、抱きついたままの狭山が覗き込んだ。
「大門っ!!」
そして柴は嬉しそうに、春吉の枕元まで近づいた。狭山から自分を庇ってくれたのが嬉しかったらしい。
「酷い」
「え?」
「……柴君、……なんて、………嫌いだあ!」

さっきから小さい小さい言われたのに腹を立てた春吉は、涙眼で柴を睨むと布団にくるまった。 部屋はうってかわったように静かになるが、その静かになった部屋は変わった笑い声によってまたうるさくなる。

「にしし!嫌われちゃったな、柴犬君! 」
「うるせー!サルヤマ!!」
「なっ!?お前、いちいちムカつくなあ! フン!オイラ知ってんだかんな、お前泥棒ネコって呼ばれてんだって?犬か猫かはっきりしやがれ、ばーか」
「ふざけんな!誰が泥棒ネコだっ!!あと、柴犬って呼ぶな!」

「お前らどっか行け。オレももう寝る」
今まで二人の喧嘩に見向きもしなかった須藤が、春吉の隣の布団に入りながら言うと、今まで犬猿の仲よろしく言い合っていた二人が今度は一致団結して須藤に食ってかかった。
「なんでお前がさも当たり前のように大門の隣に寝てんだよ!」
「そうだそうだ! オイラだって春吉の隣がいいー!」
ギャーギャーとうるさい部屋の戸がすっと開かれる音は、彼らには小さすぎて聞こえなかった。
「うるさいぞ、一年! って、なんでお前がいるんだ、狭山よ…」
「げ、キャプテン!」
「部屋に戻るぞ。 お前は俺と相部屋だろ」
「いやだあああーーーー!」
長身の広瀬が狭山を引きずっていくのを、須藤は春吉の隣の布団に横になりながら笑顔で送り出した。 狭山の退場でまた静かになった部屋で、今度は冷戦が始まる。
「……それで、なんでお前がそこに寝てんだよ」
だが、決着はすぐについた。 まさに、瞬殺。
「なんでって。お前の理論でいくとより背の高いオレが寝るべきだろ。 ああ、それにお前、今こいつに嫌われたばっかじゃん」


合宿二日目の朝。

柴の眼は赤かった。





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