献上品
□好きな人になりたくて
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「大門、お前…今日もホームルームいていいのか?」
「え? ああ、はい」
珍しく、というか初めてまともにホームルームに出席しだした春吉を見て、担任が聞いてきた。彼は最近、部活に3番目以降につくように部活に向かっている。
狭山先輩が誰を好きか、なんて。
考えても分かるはずない。ボクは部活中の先輩しか知らない。部活中の先輩は、誰にでも優しくて、ボクにも優しい。それしか知らない。 ボクも「みんな」の中の一人。それしか分からない。 なのに……
誰なんだろう、と考えてしまう。 先輩の「特別」はどんな人なんだろう。
そう思ってからは、狭山先輩を見ることが多くなった。 でも、ボクが見てるのはもうプレーじゃない。先輩の視線の先を、彼の「特別」を探してる。
それでどうなるんだ!
急に、春吉は自分に腹が立った。
ボクは、探してどうするつもりなんだろう
―――その人を真似る?
そんなこと、何の意味もない。
もう、自分の「特別」が狭山先輩ってこと以外、なにもわからない。
ここ最近、そんなことばかり考えているどうしようもないボクに、やっぱり狭山先輩は優しかった。そんな先輩のことを忘れようと、更にバスケに打ち込んだ。 なのに、ボクがカットなんてしようものなら、嬉しそうにうまくなったとボクを褒めてくれた。
ボクは何もうまくなってなんかない。むしろいろんなことが下手になったくらいだ。
息の仕方とか、落ち着き方とか、笑い方とか。
あと、狭山先輩を考えないで生活することとか。
前は普通にできてたのに。
そんなことを考えていると、なんだかいろんなことで頭が真っ白になって、周りもよく見えなってきた。 そのうち目の前も白くなって、体育館が揺れる。
白くなっていく視界と遠くなっていく音の中、最後に目に映ったのが狭山先輩の顔で、最後に聞いたのがボクを呼ぶ狭山先輩の声だったから、このまま焼きつけるように眼を閉じた。
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