献上品

□好きな人になりたくて
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春吉が目を開けると、そこは白で統一された部屋だった。薬品特有のにおいが鼻につく。 春吉は、ゆっくり目を開けた。

「あれ? ボク……」
「倒れたんだよ、体育館で部活中に」
「狭山先輩っ!?」
やっとはっきりしてきた視界に飛び込んできたのは狭山だった。春吉は、驚いて飛び起きようとしたが眩暈で失敗した。
「ああ!だめだろ、まだ寝てないとー!! お前、貧血らしいぞ」
再び布団に沈んだ春吉に、狭山がずれた掛布をかいがいしくかけてやった。
すみません、と小さく謝る春吉の頭をくしゃくしゃとかき混ぜる。
「まったく、心配かけんなよー! でも、なんでもなくてよかったなー!!」

なんで?

「こんなに、ボクに優しいんですか?」
「え?オイラが? オイラね、気に入ったヤツには優しいの!それにお前、今一応病人だかんな!」

そうか、気に入った人には「みんな」優しいのか。

「つーかさ、それよりお前大丈夫か?体壊したら何にもならないんだかんな! 無茶したって、急にバスケうまくなったり、急に背え伸びたりしないんだぞ!? まあ、オイラみたいなスーパープレイヤーが目の前にいて?『早く狭山先輩みたいになりたいっ!』って思う気持ちは分かるけどな!にゃはは」

もう、この人の優しさに耐えられない。

 「ボクは別に、狭山先輩になりたいんじゃない」
 「なにっ!? お前、それはビミョーに失礼だぞ!」

 これ以上、ボクに優しくしないで。

「……ボクは、狭山先輩の好きな人になりたい」

「え?」

「すみません。 ボク、あの日聞いちゃったんです」
「あの日って……?」
「……先輩が、体育館裏で告白された日です」


「……ごめんな」

あの日と同じ、セリフ。 これでやっと、楽になる。


「お前に、言わせて。 怖かったろ?」

「え?」
「本当はさ、オイラからいうはずだったんだぞ! しかも、今日」
「狭山先輩……?」
ぎこちなく話しかける春吉に構わず、狭山はまくしたてた。
「なのに!まさか、先に言われるなんて! オイラ超ダッサイじゃん!!」
「先輩……!」
話を聞いてくれない、というか話をさせてくれない狭山にしびれを切らした春吉は、彼が掛布にのせたままの手を取った。 すると、狭山はゆっくり笑い春吉が握ってきた手を握り返して言った。

「オイラ、春吉っていう好きなヤツがいるんだ!」

狭山が相変わらずにししと笑って言うと、しばらく呆然としていた春吉は堪え切れなくなった涙を見られないようにうつむいた。

 久しぶりに見たような気がする周りの景色は、日の傾いた夕焼けで。
夕焼けで橙色に照らし出された泣き顔を、先輩に見られるのが嫌だった。


でも、もう少ししたら、顔を上げよう。

こんなにきれいな夕焼けを、先輩とを見ないのはもったいない。







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