◆青山恭平シリーズ◆

□◆第7話「追憶〜消えた相続人」◆
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第1章 想定外な訪問者-1

「あの、青山恭平先生のお宅はここですか?」

 その、余りにも意外過ぎる訪問者が青山恭平探偵事務所に現れたのは、暖冬と言われた割には寒い日が続く、年の瀬も押し迫った、12月下旬の祝日の朝だった。

「そうだけど、君、ここにどんなご用かな?お母さんは?」
 光は、その小さい訪問者の目線と高さを合わせるために、片膝をついて聞いた。月子も傍に来た。
「お母さんは死にました。」
「え?」

 そう言ったその子の顔は真剣で、とても冗談を言っているようには見えない。

 月子が聞いた。
「君、何年生?」
「1年生です。」
「もう一度、聞くわよ。お母さんは?」
「死にました。」

 どうも、嘘ではないらしい。

「じゃあ、お父さんは?」
「いません。」
 光は驚いて言った。
「いないのかい?じゃあ、君は一人ぼっちなの?」
「お母さんが、ここに来ればお父さんに会えるって言いました。」
「え?どういうことかな?ここで、お父さんと待ち合わせしてるのかい?」
少年は、頭(かぶり)を振った。
 月子がまた聞いた。
「君、お名前は?」
「りょうすけ。かしわばら良輔です。」
「そう、良輔君。じゃあ、良輔君、お父さんのお名前、分かる?」
「うん。あおやまきょうへい。」

 え、今なんて言った?何があった?今、この少年は、父親の名前を「青山恭平」って言わなかったか?自分の聞き間違いか?

 光はそう思って月子を見た。月子も同じことを感じ、光と顔を見合わせた。そして二人で、事務所中を見回した。

 事務所兼用のリビングには、先日品川から送って貰った豪華なソファが、元のソファと並んで鎮座し、そこでは、力哉、秀幸、安、神谷、そして恭平が、やはり驚いた面持ちで、玄関での光、月子、良輔少年のやり取りを見守っている。


 しばしの沈黙の後、気を取り直した光が言った。
「ねえ、良輔君。今、君、お父さんの名前、なんて言った?」
「青山恭平。」
「そう、そう言ったよね。どういうことなのかな?」
月子も聞いた。
「良輔君。君のお父さんのお名前が、ここの探偵さんと偶然同じ、ってことなのかしら?」
「分かりません。ただ、お母さんが、ここにお父さんがいるって、死ぬ前に言いました。」

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