企画部屋

□臆病者の思いの丈
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どんなことでも、いいのに。

開いた口で言葉を紡ぐことが何故かできなくて。
彼を前にして、抱いた気持ちを隠してしまう。
その回数はもはや自分でもわからなくなってしまった。
言っても怒られないだろうに。
呆れられないだろうに。
なにがこわいの。


「嫌われることが怖いんだろう」


正面から投げられた声にゆるゆると顔を上げると眉根にしわを刻んだ跡部くんが。
どうして、


「跡部くんがそんな顔するの?」
「……いつまでも経っても進歩しないバカを見るとどうにもな」
「うそ、ばっかり」


同じ生徒会のよしみだからとなにかと気遣ってくれることなんてバレてるのに。
うそ下手な人。
いや、こんな人にうそを吐かせるあたしが悪い。
意気地なしの、あたしが。


「忍足はどうした?」
「……わからないの。待ってる、とは言われたけど」


声が詰まる。
忍足くんのことだけは、隠せない。
でも彼を前にすると隠してばかり。
本音を言ってしまえたらいいのに。
そうしたら、そうしたらこんなにも考えずに済むのに。
なんでこんなに臆病なのだろう。


「跡部くんはだれかに本当のことを伝えらずにいたことって、ある?」
「ないな。自分の考えること、思ったことに確固たる自信があるから押し殺す意味がねぇ」
「やっぱり、そうだよね。……あたしも、そうなれたらいいのに」


自分の考えに自信がないのもそうなのかもしれない。
でもなによりあたしが信じきれていないから。
それが、いけない。
頭ではこうわかっているのに。
うまくいかない。
伝わらない。
もう愛しい気持ちなんていっそ、


「なくなってしまえばいいのに」


自分の口から落ちてしまったそれはどんな感情も含んでいなくて。
ただ音として溶けて消えたのに。
とても、重たかった。


「好きなんて気持ち、持たなければ」
「そんなこと言わんといて、名前」


背中に自分のもの以外の温もり。
すぐ側に聞こえた低い声。
間違いなく、彼の、忍足くんのもの。


「……どうして、ここに? まだ、作業もおわってないのに」
「さあ、なんでやろね」


ふんわり。
そう抱きしめられて紛れもなくこの人は忍足くんなんだな、なんてどこか冷静に思ってしまう。
でもとく、とく、と脈打つ鼓動は速まってる。


「なあ跡部。名前、連れて行ってもええ?」
「ああ。いまの苗字だと作業もまったく進まないからな。しっかり話しつけて来い」
「ありがとうな」


あたしの荷物を片付けて、あっという間に生徒会室を後にする。
扉を閉める前、ほんの少し見えた跡部くんはなにやら満足そうに笑っていた。
まさか、


「跡部くんに呼ばれてきたの?」
「ないしょ。名前が思ってること教えてくれたら教えたってもええけど」


あたしの手を引いて歩き続ける忍足くんは、なにを考えてるんだろう。
どんな気持ちで、あたしを。


「俺、意外と臆病者でな」
「……え?」
「名前に対していつまで経ってもどきどきしっぱなしで、どうしても上手く言えへん」
「お、忍足くん、なんの話、」
「めっちゃ好きやって、お話」


どんどん歩く速さが上がっていて着いていくのが必死の中、聞きとったその言葉。
こんなの言ってもらったの、告白以来じゃ。
忍足くんがくれた分、あたしも。


「あたしも、好き……! 」
「……っ知っとったよ。でも、ありがとう」


忍足くんは顔をこっちに向けてこそくれなかったけれど、じんわりと熱を増す手がぜんぶ教えてくれてる。
忍足くんの、気持ち。
あたしの気持ちもこうして伝わってるのかな。
きゅっ、と少しの力とたくさんの想いを込めてみた。
どうか、伝わりますように。
これからもずっとずっとあいしてます、って。



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