企画部屋

□love mail
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一年の最後の月。
期末試験が近くて部活は休みだった。
なのに、マネージャーの名前さんからメールが入った。
今日一緒に試験勉強をしようとの誘いのメール。
偶然クラスに来ていた鳳が、それを覗き見ると携帯を俺の手から奪い取った。


「っ…返せ」
「ちょっと待ってよ。…………よし。はい、いいよ」


人の携帯にも関わらず素早い手つきで何か打つといつも以上の笑顔で携帯を返された。
送信ボックスを見ると、名前さん宛てのメールが先頭に。
しかも、内容は名前さんからのメールに快諾したものだった。


「鳳っ…!」
「折角なんだから行きなよ。名前さんもきっとそうした方が喜ぶし。…それに」
「それに何だよ?」
「いい加減、告白しなよ。日吉」


鳳にそう言われた瞬間、嫌でも顔に熱が集まるのが判った。
…こいつ何で知ってんだよ…!


「折角のいい機会だし、ね?」
「……いい機会って、何が?」
「名前さんと二人っきりになれるだろ?だから」
「…お前な…」
「まあ頑張って。俺からの誕生日プレゼント、追加ってことでさ」


世間一般で言う<爽やかな笑顔>ってやつを浮かべて鳳は自分のクラスに帰って行った。
……放課後、本気で告白…するのか?
そもそも名前さんは俺をどう思ってるんだ?
部活で毎日のように顔を合わせていたのに、そういったことは全く判らない。
ただ、俺は名前さんが好きだ。
初めて名前で呼ばれた時、どれほど嬉しかったことか。


(「いい加減、告白しなよ。日吉」)


鳳のその言葉ばかりが頭の中をループしているうちに休み時間終了のチャイムが鳴り響いた。
……名前さんに何て言ったら伝わるんだろう。
何て言ったら、あの人を自分だけの人に出来るんだろう。










(結局もう放課後か…)


荷物を纏めながらそんなことを思うと、不思議と動悸が早くなってくる。
いや、不思議なんかじゃないな…。


(場所は、自習室…)


あれから何度見たか判らないメールをもう一度見て携帯を閉じた。
……いや、待てよ。
自習室みたいな静かなところでどう告白するんだ?
静か過ぎて何も言えやしないだろう…。


(全く考えてなかった…。……やっぱり今日は)
「若ー」


急に名前を呼ばれたかと思うと、目の前には名前さんがいた。
……ここ、二年の教室だよな?


「遅いから迎えに来ちゃったよ」
「遅いって、まだ終礼終わってからそんなに時間経ってないですよ?」
「え?あ!あたしのクラス、今日終礼なかったからだ!」


恥ずかしい、と言って照れ笑いをする名前さんを愛らしいだなんて、らしくないことを思ってしまった。
事実、周りにまだいるクラスメイト達は好奇の目で名前さんを見ている。


「…勉強するんだったら早く行きましょう」
「そうだねー。じゃあ行こっか!」


明るい声音で返答すると、名前さんは早々に教室を出ようとするのでそれを追った。
この人をこれ以上他の男なんかに見せたくないから好都合だ。


「今日付き合ってくれてありがと」
「いいですよ。勉強することに時間使うんですから」
「判んないことあったら訊いてね!何だって教えるから!」


あまり笑顔の名前を見て、俺は思わず歩みを止めてしまう。
名前さんも、俺の数歩前で止まる。
周りには沢山生徒が行き交ってるのに。
俺と名前さんの時間だけが止まったみたいだった。


「どうかしたの?若」
「…教えて欲しいこと、一つだけあるんですけど…いいですか?」
「うん。あたしでいいなら全然いいよ」
「……貴女は……。………名前さんは、俺のこと…好き……ですか?」


口にした言葉に震えながら、そっと名前さんの表情を窺った。
こんなに、この人を見ることを恐れたことはない。
名前さんが視界に入るだけで身を切り裂かれそうな気分になる。
こんな想いをするなら、永遠に片想いでよかった…。


「…これが返事じゃ、ダメかな?」


その言葉が耳に届いたと思った瞬間、躯に別の温もりを感じた。
………嘘…だろ……?
なんで……。


「嬉しかったよ。…若があたしと同じ気持ちで」
「本当…なんですか?」
「嘘なんか吐かないよ。あたしも、若が好き」


今ここがどこだとか、俺には関係なくなっていた。
目の前にずっと恋い焦がれた人が居るんだから。


「じゃあ…俺と付き合ってくれますか…?」
「…うん。これから、よろしくね」


俺の腕の中で小さく笑った名前さんを今度は俺から抱き締めた。
冷静にと言い聞かすほど、顔が緩んでいく。
自分の思い通りにならないのに、何でこんなに穏やかでいられるんだろう。


「あ…。若、誕生日のプレゼント、」
「プレゼントなら、いらないです」
「え……?」


名前さんの戸惑いを感じて躯を離してみると、不安を瞳に宿していた。
このままだと誤解させてしまう。
今の気持ち、ちゃんと伝えないと。
哀しげなこの人も綺麗だけど、やっぱり笑顔がいい。


「プレゼントは、いらないです。」
「どう、して…?」
「今年は、貴女を貰いましたから」


そう囁いて笑うと、名前さんも綺麗な笑顔を見せてくれた。



love mail


今思うと、あのメールってそうですよね?




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