企画部屋

□Incantation of love
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放課後、荷物を纏めていたら何だか教室がざわめいた。
かと言って、よそ見なんかしてる場合じゃないし。
気になるけど名前さん待たせたら悪いから急がないと。


「終礼早めに終わったから来ちゃった」
「名前さんっ…!?」


背後から聞こえた声に振り返えれば、三年の教室に居るはずの名前さんがいた。
長く綺麗なブラウンの髪が印象的な俺の、彼女。
容姿端麗、とはこの人のことを言うんだと常に思う。
贔屓目抜きで本当に綺麗な人だ。


「さ、帰ろ?」
「あ、はいっ。行きましょう!」


慌てて鞄を持って、教室を出るとやっぱり名前さんは注目の的と化した。
名前さんの身長は170cm超えてるから余計に目を引く。
身長だけで言うなら宍戸さんが横にいるのと変わりないからな…。


「……長太郎、話聞いてた?」
「あ、えっと、すいません…。聞いてませんでした…」
「珍しい事もあるのね。考え事?」
「いや、大したことじゃないんで…。考え事っていうほどでもないですから」
「そう。ならいいけ「きゃっ!」


名前さんの言葉に誰かの声が被ったと思うと、俺たちの足元に小さな女の子がいた。
どうやらお互いに曲がり角で見えずにぶつかったらしい。


「ごめんね。ちゃんと前を見てなかったわ。怪我はない?」
「い、いえっ!大、丈夫です!こっちこそすいませんでしたっ!」
「謝らなくていいわよ。気をつけて帰ってね」
「はいっ!ありがとうございます!」


ペコッと頭を下げた女の子はそのまま走って行ってしまった。
顔、真っ赤だったな、今の子。
…名前さんに見惚れたんだ、多分。
あんなににこやかに微笑まれたら、誰だって見惚れるよなあ。


「長太郎。行くよ?」
「は、はい!」


また声掛けられるまで気付かなかった…。
いい加減、ちゃんとしないと。


「今日は随分とぼんやりしてるのね。あたしといることよりも大事なこと考えてる?」
「そんなことないです!ただ…」
「ただ?」
「……名前さんが綺麗だとか…そういうことばかり…考えてたんで…」


ああもう遅かった。
名前さんに問われたら言い逃れなんかできない。
それでも、自分で言った言葉が恥ずかしくて、つい濁らせてしまった。
間違いなく、顔が赤い。
これじゃさっきの女の子といい勝負だ…。


「…ありがとうね、長太郎」
「な、何がですか?俺、名前さんの話とか聞いてなかったですし、それにっ…」
「だって、自然とあたしのことばかり考えてくれてるだなんて。嬉しかったよ」


いつもよりも少し柔らかい口調で言われて一瞬、呼吸すら止まった気がした。
付き合い始めたばかりでもないのに、こういうのには未だに慣れない。
魅力的すぎるのも困りものだよ…。


「早くしないと日が落ちるから、帰ろう?」
「…はいっ!」


それでも、俺の彼女は名前さん以外に考えられない。
そう思えるのって、すごいことだと思う。
だから、この人を、


「…ずっと愛してますから」
「あたしも、長太郎だけよ」


これが、最後の恋ね。

と、耳元で囁かれた言葉はまるで呪文のように俺の中にすんなりと染み渡った。
お互いの指が絡んだ手を握り直して名前に笑って見せた。
今の笑顔、照れ隠しだってきっとばれてる。



Incantation of love


貴女から紡がれるなら何だって甘い呪文のように聞こえる俺はもう、末期だ。




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