企画部屋
□穏やかな沈黙
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ぬくぬくするような温かい気候。
日陰はまだ寒いけど、日が照っているところはちょうどいい温かさだ。
それに加え、部活が休みならもう寝るきゃねぇよ。
たまにはゆっくり家で寝るのもいいよな。
わざわざ休日に来てくれた彼女の名前にそう提案したらものすごい怪訝な顔をされた。
そんなにマズいこと言ったか?俺。
「だからってさー、あたしは眠くないんだけど」
「日なたにいりゃそのうち眠くなるって。な、寝ようぜ?」
「……あたし、今日十時間寝てるから多分無理」
「十時間!?何時に寝たんだよ!」
「九時だけど?見たいテレビもないから寝たの」
俺の隣りで雑誌を捲りながら名前はそう言った。
見たいテレビなきゃ九時に寝るなんて今時小学生だってしねぇぞ?
現に俺の弟達は毎日平気で遅くまで起きてるからな。
逆にどうやったら九時に寝れるのか訊きたいくらいだ…。
「じゃあブン太は寝たら?あたしなら平気だから」
「いや、そりゃ名前に悪いだろぃ?折角来てくれたんだしよ」
「別に気にしないけど。……ああじゃあこうしよう?膝枕してあげるから、ブン太は寝る。あたし、これ読んでるから」
「……本当にいいのか?」
「うん。あたしが雑誌、隅から隅まで読むの知ってるでしょ?だから暇にはならないし、今日くらい休みなよ」
「じゃあ、それに甘えさせてもらうぜぃ」
脚を組み直した名前の膝にそっと頭を乗せると、柔らかくて顔が緩んだ。
膝枕してもらえるなんて、あんまりないことだからついやってもらっちまった。
やっぱり気持ちいいな…。
名前、いい香りするし…。
「なぁ、名前…」
「なに?眠いんじゃなかったの?」
「や、眠ぃんだけどさ。なんかお前といるのに寝るの勿体ねぇ気がしてきた」
「何よ突然。いつも一緒に居るじゃない。今日のブン太、何か面白いことばっかり言うね」
くすくす笑う名前の声すらも心地よくて、瞼が少し重くなった。
あー…、下から見てもすげぇ可愛い…。
たまには見上げんのもいいなー…。
「あんまりジロジロ見ないでよー。視線気になる」
「お前が可愛いのが悪ぃのー」
「はいはい、ありがとう。寝る気ないなら膝枕止めるよ?」
「それはなし!今すぐ寝るから!な!」
俺が慌てて寝る意思を告げると、名前はまた朗らかに笑った。
……うん、やっぱ可愛いな。
って、これじゃ永遠ループじゃねぇか。
よし、俺は寝る。
名前の膝枕っていう最高の位置で寝る。
で、起きたらまた笑顔拝んでやる。
「名前、おやすみ」
「おやすみなさい。…いい夢見てね」
静かに囁かれた言葉を耳にして、俺は目を閉じた。
名前が雑誌を捲る音だけが広がる静かな空間が、俺を穏やかな気持ちにした。
そんな温かな休日の昼下がり。
こんな風に一緒にいられるって、すげぇことだと思うんだ。
お互い何も喋らねぇのに、その沈黙がひどく和やかで。
言葉なんかなくてもお互いのこと判ってるみたいな関係。
マジで理想的だろぃ?
目が覚めたら、そう言ってみよう。
きってまた、お前は優しく微笑みながら聞いてくれるだろうからさ…。
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