企画部屋

□伝わる?君想う気持ち
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毎日毎日、本当に大好き。
でも今日だけは伝わってるか、判らない。



−伝わる?君想う気持ち−


今日は学校中の女の子がいつ、どこで渡す、とかの話で持ち切りで。
そんな話を聞きたくなくて、屋上に逃げて来てしまった。
いつでもどこでもいいじゃん。
それくらいで結果が左右される訳でもないのに。
こんな考え、可愛くないけど。


「ここにいたのか、名前」
「…景吾。今年もお疲れ様」


優しい日の光りをバックに、景吾が給水タンクの上に寝転んでいたあたしの顔を覗き込んで来た。
金髪、キレー…。


「横になるならスカートにブレザーくらい掛けとけよ。中、見えんぞ」
「………いいよ。どうせ誰も見てないから」


そう言ったにも関わらず、景吾はスカートにブレザーを掛けてくれた。
……いいって言ったのに。
それに、ブレザーなんか脱いだら景吾が寒くなる。
まだ冷えるんだから。


「景吾、ブレザー着て。風邪引いちゃう」
「俺様なら平気だ。それに、もし風邪引いたらお前に面倒見てもらうから構わねぇよ」


横に座った景吾は、いつもと変わらない強気な笑顔を見せてくれた。
こういう景吾の顔は、本当に大好き。
景吾に似合うし、何よりかっこよく見えるから。
でも、そんないつもと変わらずに笑う景吾を見てもあたしの心は真っ黒のまま。
あたしっていう彼女がちゃんといるのにチョコを渡して、挙げ句の果てには告白までする女の子がいるから。
景吾はあたしの彼氏なのに。
みんなはそれを無視して景吾を追う。
自分の気持ちを伝えようと、必死で。


「…すごい、ね」
「あーん?何がだ?」


小さく呟いたはずだったのに、しっかり聞き取った景吾が声を出したのと殆ど同時に。
屋上の重い扉がガンッ!とすさまじい音を立てた。
その音に跳び起きると、何人もの女の子達が屋上に入って来るのが眼下に見えた。
十人はいるなぁ…。
みんなメイクをバッチリキメて。
スタイルいいしあたしじゃ負けるよ、あれ。


『ここにも跡部様いなぁ〜い!』
『えー!?どこに行ったのよー!跡部様ー!!』


昼休み全部使ってまで捜すのかな。
……その想いの強さはすごいけど。
お願いだから、景吾を追わないで。
あたし以外の景吾にしようとしないで…。


『裏にも居なかったぁー』
『じゃあ他行こー。時間まだあるしー』


再び重たい金属音が響くと、屋上は平穏を取り戻した。
……よかった、出て行ってくれて。


「ったく…昼休み中ここから出れねぇな…。しつけぇメス猫共だ」
「…………」
「…名前、どうかしたか?」
「……何でもない」


景吾に背中を向けるように横になって目を閉じた。
子供っぽいって判ってるよ。
でも、それくらい大好きなんだからしょうがないじゃん。
……嫉妬、だなんて可愛くないけど…。


「ククッ…。可愛いことするじゃねぇの」
「…可愛くないし」
「どうだかな。ほら、拗ねんなよ」
「…拗ねてもない」
「名前」


間近に聞こえた声に目を開くと、景吾があたしに覆い被さっていて。
これでもかと綺麗に輝いてる金髪が視界に広がっていた。


「…毎年悪ぃな。嫌な想いさせて」
「景吾は悪くないよ。あたしが、勝手に…」
「勝手じゃねぇよ。それに、それだけ俺のこと愛してるってことだろ?」
「そう、だけど…」
「ならいいだろ。仮に、名前が男に追われてたら俺様だって妬くからな。お互い様だ」


そんなことを言いながら笑う景吾。
その、さっきとは違うどこか温かい景吾の笑顔にあたしも自然と笑顔で頷いていた。
景吾の言葉一つで、毎年思ってた色んなことが全部消えてて。
気が付けば、黒々とした気持ちもなくなってた。
あたしの気持ちが判ったのか、小さく頷いた景吾はあたしの上から退いた。
視界に戻ってきた太陽がやたらと眩しい。


「で、今年は何くれんだ?」
「その、今年はあんまり時間なくて…。ブラウニーにしたの」
「そうか。楽しみにしとくぜ」


どんなものをあげたって、景吾は毎回そう言って美味しそうに全部食べてくれる。
…甘いもの、そんなに好きでもないのに。
一つ、景吾の優しさに気付く度に自分がどれだけ想われてたか再認識した。
あたし、ちゃんと景吾の愛情もらってるじゃん…。


「…景吾。いつもありがとね」
「何だよ、突然」
「急に言いたくなっただけ」
「じゃあ、俺も言うぜ?」


引っ張り起こされると、そのまま景吾の腕の中に収まってしまった。
耳に景吾の髪が当たって少しだけくすぐったい。


「…いつも俺の傍にいてくれてありがとな」


そんなことを囁かれたら、もう何も声に出せなかった。
ただ真っ赤であろう顔を見られないように力一杯抱き締め返すだけで。
いつも傍に居てくれて嬉しいのは、あたしもだったから。
何も返す言葉が見付からなかった。


(ねぇ、大好きだよ)
(俺も、愛してる)


伝わってたよ、君想う気持ち。




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