企画部屋

□一方通行改善計画
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最近のバレンタインって、逆チョコとか流行ってるみたいで。
俺も便乗してみることにした。



−一方通行改善計画−


今年のバレンタインは日曜日ということもあって前日に渡すことに決めた。
…クラスの女子がそんな話してたからだけどな。


(…やっぱり、男からチョコってのもなあ)


そう思って一人よりはマシかと思って丸井先輩を誘ったところまではよかったんだけどよ。
……この人、俺の存在絶対忘れてやがる。
さっきからケーキ何個追加注文してんだか判ねぇし。
店員のオネーサン、めっちゃ苦笑してるじゃん。


「いやぁー、久し振りにこの店の買ったぜぃ。ミルフィーユが美味いんだよな、ここ」
「そりゃよかったっスねー。ところで先輩、俺が何で誘ったか忘れてません?」
「……大丈夫、忘れてねぇよ!名前に逆チョコすんだろぃ!?」
「そースよ……」


忘れ掛けてたな、絶対。
変な間あったしよ。


「まあ俺みたいに日頃から菓子作んねぇなら買うのが無難、って考えは判るしな。協力してやるよ」
「頼みますよ!俺、バレンタインにフラれるなんて嫌っスから!」
「…そりゃねぇと思うけどな」
「はい?今なんか言いましたか?」
「いーや、何も言ってねぇよ。ほら、何にすっか選ぶぞ」


丸井先輩が何か呟いたけど、あんまりにも小声過ぎて俺には聞き取れなかった。
ま、今の俺には丸井先輩よりも名前先輩に何を渡すかの方が重要だ。
あの人、甘いモンは好きだから何でも喜んでくれっとは思うけどありきたりなのは嫌だな…。
でも逆にそれが無難ちゃ無難だしよ…。


「お、これとか中々お洒落じゃねぇ?」
「これって、そういう仕組みなんスか?」
「おう。テレビでやってんの見たぜ。女の子ってこういうの好きそうじゃん」


丸井先輩が選んでくれたやつは、俺が見たことないやつで。
確かに、女子は好きそうだと思った。


「じゃあ、これにします」
「よし、決まりだな。明日、ぜってー上手くいくから頑張れよ」
「…うぃっス」


これで準備は出来た。
後は明日、俺がちゃんと言えるかどうか。
結果なんか判んねぇ。
でも、やれることはやってやるぜ。










「き、緊張してきた……」


一人だってのに緊張し過ぎて勝手に言葉がこぼれる。
放課後に渡そうと思って昨日の夜、考えに考え抜いて漸く名前先輩に校舎裏に来て欲しいとメールを送った。
…考えまくった割りに大した内容にはならなかったけどな。


「赤也。遅くなってごめんね」
「うわわわわあ!!名前先輩!」


いつの間にか来てくれてた名前先輩。ってか俺、ビビりすぎだろ…。


「フフッ、びっくりさせちゃった?」
「大丈夫っス!あ、あの先輩っ…」
「何?あ、そうだ。赤也にもチョコあげるね。明日休みだから」


名前先輩は持っていたどっかのショップの袋から一つ、綺麗に包装された物を取り出して俺にくれた。
逆チョコするつもりが、フツーに先輩から渡されちまった…。


「あー…。もしかして、甘いの好きじゃなかった?」
「…はい?」
「赤也があんまりにもぼーっとしてるから…。嫌いなのかなぁって、お菓子」
「違いますよ!めっちゃ好きっス!!ありがとうございます!」
「そう?ならよかった」


目を細めて笑う名前先輩はいつも通り綺麗だった。
ただ、俺が緊張してるせいか顔もろくに顔も見れねぇよ…。
ってか、早く言わねぇと。
先輩、寒ぃだろし。


「……あのっ!名前先輩!」
「うん、なに?」
「こ…こ、これ、よかったら受け取って下さいっ!!」


思い切り頭を下げて、勢いで先輩に差し出すと、僅かな間の後に手からスルッと抜かれた気がした。
ゆっくり顔を上げれば、興味深かそうにそれを見つめてる先輩が視界に戻る。


「これ、薔薇?可愛いね」
「ひ、開くんスよ、それ。真ん中に切れ目入ってるの判ります?そこに、その、チョコ入ってるんス」
「あ、本当だ。すごいお洒落ー。逆チョコなんて貰ったの始めてだから嬉しいよ」


本当に嬉しそうに笑ってくれた名前先輩を見て、一先ず安心した。
何とか第一段階は上手くいったぜ…。
でも、いざっていう時に試合以上に心臓が煩く鳴って躯が震えて言葉が出ない。
好きって、言葉がこんなに重いなんて知らなかったってのっ…。


「赤也?どうかしたの?」
「…先輩、今から言うことマジで聞いて下さい」
「…うん」
「……俺、名前先輩のこと本気で好きっス。だから……俺と、付き合って下さい」

今までしたことないような真顔だ、絶対。
俺、真剣に名前先輩のこと好きだから。
この気持ちにいつもみたいにふざけたモンなんて入ってねぇから。


「赤也」
「は、はい…」
「…ありがと。あたしも、赤也のこと好きだよ」
「マジ…っスか…?」
「マジ、です」


はにかんだような顔で返事をくれた名前先輩が、今、この時間が。
夢、なんじゃないかって。
本気で思っちまった。


「あ、雪降ってきたね…」
「…どーりで寒いわけっスね」
「……でも、こうしたら寒くないよ」


名前先輩の手がそっと重なって、そこで雪が溶けた。
先輩の手、あったか…。


「改めてよろしく、赤也」
「…うぃっス、よろしくお願いします。名前先輩」


交わった視線に、お互い微笑んだ。
すっげぇ寒いのに、躯の中は温かい。
逆チョコ、してよかった。
でなきゃ一方通行の想いは、そのままだっただろうから…。




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