企画部屋

□Autumnal Rendezvous!
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秋口の涼やかな風が頬を掠める。
少し過ごしやすい今日日。
昼食を終えて、名前と中庭の木陰にあるベンチに並んで座った。


「む、寒い、かも」
「秋だからな、こればかりは仕方がない」
「そっかー、秋だもんねー」


などと言いながら、カーディガンを腰に巻いてるのはどこの誰だと思っているのだろうか。
持っているなら着ればいいのだが。


「蓮二ー。それちょうだーい」
「ああ、ほら」
「ありがとう。………あう、苦いー」
「苦手、だろう?緑茶」
「うー…。甘いの甘いのー」


自分が持っていたミルクティーを飲むと、横で安堵の溜め息を吐いた。
何故、緑茶を口にしたんだろうか。
データをいくら集めても、名前のことは読めた試しがない。


「蓮二ー。ひまー」
「もう昼休みも終わるぞ」
「やだよー。次の音楽、テストだしー」
「音楽室は快適だろう?」
「それはいいんだけど真田くんの歌声、笑っちゃうからお腹痛いの」


思い出し笑いをしながら、内緒ね、などと言う名前には本当に弦一郎の歌声が面白いらしい。
まぁ、判らないでもないな。


「だから次の授業はサボろ!」
「俺にもサボれと?」
「だって、一人じゃ寂しいし……」


さりげなく俺の手を握って、返事を待っている。
……これは贔屓目抜きにしても可愛いな。


「仕方ないな、今回だけだぞ」
「やった!蓮二大好きー!」


予想通り、抱き着いて来たか。
ここが学校ではなく、家だったらどれだけよかっただろう。
学校、しかも中庭ではキスの一つもしてやれないな。
実に残念極まりない。
そんな感情を抑え、頭を撫でてやると名前は不思議そうな顔を向けた。
何か気になるのだろうか。


「ね、蓮二。ちゅー、は?」
「………何?」
「ひゃっ、開眼しないでよー」


急に目を開いたせいで、名前が離れてしまった。
しかし、この場がどこか判っているのか?


「名前、ここが何処か判るか?」
「むぅ、失礼な!中庭、でしょ?」
「だから、キスはできない。判るな?」
「何でー?この間、廊下で仁王くんが彼女さんとしてたもん。だから、ちゅーしよーよー」


……仁王の奴、これから一週間のメニュー増やしてやろう。
名前に余計な物を見せた罰だ。
珍しく本気で惚れていても、節度は守ってもらいたいものだな。


「蓮二はあたしとちゅーしたくないの?」
「いや、そういうわけではない」
「じゃあ、いいでしょ?」


俺を見上げて、首を傾げる名前。
……もう我慢ならない。
周りに人がいないことをできる限りで確認し、触れるだけのキスをしてやった。


「ありがとー。蓮二のちゅー好きー」
「光栄、だな」


名前の腰に手を回して、抱き寄せるとくすぐったそうな声を出して笑っていた。
朗らかな笑い声が耳に心地いい。


「蓮二、くすぐったいってばー」
「判っていてやっている、と言ったら?」
「んー。蓮二だから許す!」


小さな子供のように笑う名前に、もう一度キスを送る。
一度してしまえば、場所が何処であろうとどうでもよくなったようだ。


「あ、蓮二。見て見て」
「何をだ?」
「真田くんがすごい形相して走って来るー」


名前が指差す方向、つまり、俺の後ろを顧みると弦一郎が顔を真っ赤にして走って来ていた。
大方、名前とキスをしているとこを何処からか見られたのだろう。
名前がいる手前、怒られているところは見られたくないのが本音。


「逃げるぞ、名前」
「へ?逃げちゃうの?」
「恐らく弦一郎はお前が自分の歌声をおかしく思っていること知って来ただろう。つまり、名前が怒られる。いいのか?」
「や、やだ!!蓮二、一緒に逃げよ!」


俺の手を掴むなり、ベンチから立ち上がり脱兎の如く走り出した名前の背中を見詰め、静かに笑った。
本当に面白可笑しい、可愛い奴だと思いながら。




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