氷帝
□fell in you
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元々、名前は感情表現が苦手やった。せやけど、付き合い始めてから少しずつ言いたいことを言うてくれるようになった。
はず…やったんやけど…。
「なぁ、名前。それ、なんやの?」
「………………」
さっきから何度も問い掛けとっても、一向に口を開かへん。
いや、何か言おうと口は開くんやけど何も言わへん。
言うてくれへんと俺も判らんし、いつまでも黙っとる名前に段々苛立ってくる。
名前には怒りたないんやけど…。
「黙っとったら判らへんて何回言わすん?」
「……………」
「……もうええ。好きにしい。そないに言いたないんやったらずっと言わんくてええわ」
いつもよりも随分と低い声に自分でも驚いたが、怒りに勝てるほどやなかった。
名前の部屋のドアを荒々しく閉めて、そのまま家を出た。
冬の風が、熱くなった頭を冷やしていく。
(ホンマになんやねん、あれ…)
休日に、約束なしで名前の家に行ったところまでは特に問題なかった。
前に何回かやったことあったんやから。
せやけど、今回はあかんかった。
名前のお姉さんに部屋まで通されて、部屋に入ってみたら。
部屋中に広がっとった、沢山の男物の服。
それに入った瞬間、見てしもうた。
その服を愛おしげに見つめる名前を。すぐに俺の気配に気付いた名前は勢いよく俺を見た。
そして、困ったように歪んだ顔。
それらが、あっという間に穏やかだった俺の気持ちを砕いた。
(兄貴が居るとは言うてへんかったし。やっぱり、)
そうは思いたくないんやけど。
証拠みたいなもんを見てしもうたしな…。
「本気で好きやったんやけどなぁ…」
やっぱり、本気で恋なんかせえ方がええ。
胸が痛くてしゃあないわ…。
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