氷帝

□そしてあたしは目を閉じた
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本当に、大好きだった。
あたしよりもずっと高いところで世界を見る彼が。
そこからあたしに笑い掛けてくれる彼が。
でも今では彼が、余りに残酷な存在。


「なあ、どうしたらいいと思う?」
「………知らない」
「知らねぇじゃねぇよ。俺様は真剣に悩んでんだぞ?」
「だからって、あたしに相談されても」


初めてできた彼女と、初デート。
そんな景吾の甘い話を耳にして、頭が割れそうに痛んだ。
なんで、なんでなんで。
景吾は彼女に惚れてしまったんだ。


「映画、とかがいいのか?」
「…景吾が考えてあげたプランならなんでも喜ぶんじゃない?」
「…そうだな。さすがだな、名前」
「いいえ。それほどでも」


いつもなら、もっともっと笑えて言えた。
でも、それはもう出来ない。


「ああ、そうだ。今日の放課後、空いてるか?」
「空いてるけど。何か用?」
「あいつにあげるプレゼントを選ぶの手伝ってくれ」
「……いいよ。じゃあ放課後ね」
「あぁ、頼むぜ。またな」


景吾の席から離れ、教室から出て行く時に彼女と擦れ違った。
あたしより身長が高くて、とても綺麗な人。
でも笑えばとても可愛らしくて、性格も大人びているかと言えば否。
とても可愛らしい人だった。


(…本当に可愛い笑顔)


教室を出る時に振り返ったら見えた笑顔。
確かに、とても愛らしかった。


(…あれじゃ確かに惚れちゃうよね)


あれほどにまで愛らしい彼女。
彼女は景吾とあまり変わらない世界が見れる。
そのことが妬ましいと云うより、とても羨ましかった。
景吾の世界を一緒に見れる彼女が。


(…ああもう。馬鹿みたい)


あたしはあたしだし、彼女は彼女。
それは変わらない定理だからあたしはどうしようもない。
所詮私は綺麗に言うと、[友達以上、恋人未満]なんだし。
誰だろう、こんなに都合のいい辛いポジションを思い付いた人は。


(…………放課後、来なきゃいいな)


そんな非現実的なことを心から願った。



そしてあたしは目を閉じた


今だけは見たくもない世界にさよならを。
彼があたしに望むことを叶えるその時まで。




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