立海

□憧憬だと決めつけた
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放課後、部活に行こうと廊下を歩いていたら前方に見知った後ろ姿。
あれは……!


「名前せんぱーい!」


大声で呼ぶと、周りのやつらが俺に視線を投げる。
それなのに名前先輩は振り返ってくれない。
聞こえてねぇのかなあ。


「名前せーんぱーい!待ってくださいよー!」


走りながら呼べば、やっと振り返ってくれた。
まじちょーキレー!


「赤也。相変わらず元気そうだね」
「名前先輩と一緒にいるからっスよ!俺、先輩のことめっちゃくちゃ好きなんで!」
「はいはい。ありがとうね」


名前先輩の腕に絡みついて、好きだ好きだって言ってるのに。
なんでか信じてもらえない。
今日も上手く流される、て感じ。


「名前先輩って、俺のことどー思ってんスか?」
「…かわいい後輩、かな。まあでも、後輩の中では抜きん出てるけど」
「そりゃそうっスよ!他のやつらと一緒にされたらさすがに怒りますよ!」
「ふふっ、ごめんごめん。赤也が一番好きだよ」


赤也が一番好きだよ。
今言われた言葉が頭の中で溶けて、処理するまでに大分時間を要した。
好き、すきすきすき………。


「俺のこと!すき、ですか!?」
「ん?後輩の中では、ね」


あくまでらぶじゃないらしいけど。
けど!
俺にとっては好き、って単語は十分嬉しい。
だって嫌われてたら、元も子もねぇし。


「ほら、早く靴履いておいで。部活に遅れたら真田に怒られちゃうでしょ」
「あ、い、いま行ってきます!」


いつの間にか下駄箱に着いてて、急いで二年の方に向かう。
ああもう、こういうときに限って早く履けねぇんだよなあ!
踵を踏むと名前先輩、いい顔しねぇしよ。

力任せに捩込んで、外に出ると名前先輩が待っててくれた。
やばいすげえ嬉しい。


「名前先輩!お待たせしました!」
「いいよ。…うん、ちゃんと履いたんだね」


俺の足元を見てから、頭をふわふわと撫でる。
ほんとは頭に触れんの好きじゃねぇけど、名前先輩だけは特別。


「さ、行こうか」
「っス!行きましょ!」


さっきと同じように腕を取ると、名前先輩は困ったように笑ってた。
でも、そんな顔すらすげーきれーで。
やっぱり名前先輩のこと好きだなあ、と再認識。
だってもう心臓ばっくばくだし。
あ、もしかして聴こえてんのかな。


「名前先輩。聴こえます?」
「何が?」
「……や、なんでもないっス」
「なによー。おかしな赤也」


くすくす笑う名前先輩が、やっぱりどう考えても大好きで。
余計に心拍数も増した気がするけど。
名前先輩にはこの鼓動は隠したくなった。
…だってガキっぽいって思われそうだし。


「……赤也って、好きな人いる?」


突然ぽつ、と小さく落ちてきた言葉に足が止まる。
好きな、人。
そりゃあ、


「…名前先輩が好きっス」
「それは……。きっと、あたしが年上だからだよ。憧れ、みたいな、」
「っ俺は!名前先輩が好きなんですよ!アンタが年上だからとかじゃねぇ!名前先輩のこと自体が好きだって言ってんの!なんで判ってくんねぇんだよ!」


次々と口から飛び出した想い。
ああもうこんなつもりじゃなかったのに!
頭ん中がぐちゃぐちゃになって、部室へと逃げるように走り出す。
……すっげーかっこわる…!



憧憬だと決めつけた


部活に出れば、名前先輩は普通に接してくれた。
…………てこともなく、俺を意識してるのは明らかだった。
……これは、もしかして、




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