立海

□Small worries
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あたしはいつまでこのままなんだろう。



−Small worries−


ぐっ、ぱっ。
ぐっ、ぱっ。
何度も手を握り締めては開く。
どれだけ見たってあたしの手は小さい。
手だけで済むならいいけど。
でもあたしは、あたし自身も小さい。
制服を着てたって、私立の小学生と間違われる。
満員電車に乗れば、人に押し潰される。
小さなこの躯で得したことなんて、一度もない。
そう、何時だって得しない。


(……もう、行かなくちゃ…)


図書室から見えるテニスコートを見詰めて深く息を吐くと、あたしは荷物を持って歩き出した。
……これまた、小さな歩幅で。
ゆっくりと誰もいない校舎内を歩いていると、窓ガラスに自分が映っていた。
幼い顔立ちをした女の子が。


(相変わらず童顔だなぁ…あたし)


ぼんやりとそう思いながらマフラーを巻き直して冷たい空気の廊下を歩く。
人がいないだけあって、すごい静か…。
冷たい廊下から昇降口に着いて靴を履き変える。
外に出ると、ナイターで眩しく光るテニスコートがすぐに目に入った。
こんな時間なのにまだ大勢残ってるギャラリーも、だけど。
寒いのにみんなすごい…。
もうコートには誰もいないのに。
相変わらず出待ちするみたい。
部室の出入り口の傍で立ち止まると、ギャラリーが何だかざわめいた。


『………ねぇあの子、仁王くんのカノジョじゃない?』
『本当だー。ってかマジ不釣り合いだよねー。身長差すごいしさぁ』
『あんなお子様が本気にされる訳ないじゃんね!』


…ああまただ。
何人かの女の子達の聞こえるようにして向けられてくる陰口を耳にして、下唇を噛み締めた。
あんなこと、あたしが一番判ってるのに。


「名前、遅くなって悪かったの」


気付いたら雅治が部室から出て来てたみたいで、振り返って作り笑いをして首を横に振った。
いつからだろう、あたしがこんな笑顔をするようになったのは。


「寒かったじゃろ?」
「大丈夫。今日はそんなでもないから」
「ならええけど…。風邪は引かんように気をつけんしゃいよ」


歩き出してあたしの頭を優しく撫でた雅治の顔を見るには見上げるしかなかった。
大丈夫、と再び口にして私は雅治の横を歩いた。

大丈夫、大丈夫。
あたしは雅治にそう言う度、自分にもそう言い聞かせてる。
まだ、頑張れる。
まだ、隣りに居られる。
そうやって自分を鼓舞するしかなかった。
いつだって小さなあたしはそうして来たから。


「名前。来週の日曜、部活が休みになりそうなんよ。よかったらデートせんか?」「本当?雅治とデートなんて、久し振りだから嬉しい。楽しみー」
「そうじゃな。あぁ、この間ブン太が言っとったカフェとかどうじゃ?名前、甘いもん好きやし、気になっとったじゃろ?」


柔らかい雅治の笑顔にうん、と頷いて笑い返すその瞬間だけは、幸せになれた。
雅治のその笑顔は、あたし達が二人っきりという証拠だから。
その時だけはあたしも本当の笑顔でいられるから。


「………名前」
「っ……何?」
「何?はこっちの台詞ぜよ。最近、やたらぼーっ、としとるけど何かあったんか?」
「何もないよ。ただ、デートに着ていく服考えちゃってただけ」
「…そうか。なんかあったら話、聞くからの」


雅治には知られたくない。
あたしが、小さなことで悩んでるって。
だからあたしはその日の帰り道、絶えず笑っていた。




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