立海

□ねぇこの息の根を止めて
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どうして、振り向いてくれんの。


「のう、名前」
「なぁに、仁王。そんなやる気ない顔して」
「……何でもなか」
「何それー。あ、もしかして眠いの?今自習なんだし寝たら?」


名前は判っとらん。
俺の気持ちも、何もかも。


「はい、ブランケット貸してあげる」
「名前、それじゃ寒いじゃろ。そんなのなくても俺は寝れる」
「いいから。使っときなさいよ」


いつの間にか俺は眠いことになっとった。
……もう何でもよか。


「…どっか行くんか?」
「ちょっと、ね。赤也が授業サボってるメールしてきたの」


……またあのワカメ頭に邪魔された。
ケータイを片手に名前は寒くないように防寒対策しちょる。
その名前がもう一度開いたケータイの待ち受けは、憎らしいワカメ頭との2ショットだった。
チラリと見えたそれに、恐ろしいほどの殺意が芽生える。


「ワカメの何がいいんじゃか…」
「?何か言った?」
「別に。行くなら早う行きんしゃい」
「うん。じゃあまた後でね」


最後に綺麗な笑顔を残して名前は教室から出て行った。
本当だったらあんなバカな後輩のところになんか行かしとうない。
嫌だと思い切り言えば、彼女は行かないでくれるんだろうか。
ここに居てくれと言えば、彼女は俺の傍で笑ってくれるのだろうか。


(………名前の香りがする)


背中に掛けられたブランケットを前に引っ張って無造作に顔を埋めた。
それだけで閉じた瞼の裏に彼女が過ぎる。


(香り一つでこんなんになるなんて、本当に愚かしい。どんだけ好きなんじゃ)


無い物ねだりもいいところだ。
手に入るはずのない物に恋い焦がれる。
小さな子供となんら変わりない。


(名前が一生手に入らんのだったら、)

どうかこの愚か者の息の根を止めてくれ。
もう想い続けるのは疲れたから。
そう思って、顔を埋めたブランケットの中で少しだけ泣いた。


(仁王、なんかブランケット濡れてる)
(ああスマンの。俺の涎じゃ)
(うそ!洗わなきゃじゃん!)


俺の想いもそうやって洗い流されてしまえばいい。




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