立海

□只今発展途上中
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付き合い始めて二ヶ月が経ちました。

弦一郎先輩ともそれなりです。



−只今発展途上中−


今日もいつも通り朝練に行く弦一郎先輩と一緒に登校しました。
あたしは陸上部で、朝は外周走ったりするから時間が早すぎることもないです。


「弦一郎先輩、あのですね」
「む。どうかしたか?」
「今日、部活がお休みだと赤也くんに聞いたんですけど……」


放課後、一緒にいられませんか?
なんていう簡単なことが言い出せません。
弦一郎先輩が怖いとかじゃなくて。
お邪魔したら悪いとか、そんな理由で。


「名前は……休みだな」
「はい。今日は水曜日なんで」
「では、その……放課後、どこか行くか?」
「!はいっ!」


まさか、一緒に帰るだけじゃなくてどこかに行けるなんて。
考えてもなかったあたしは朝から少しドキドキしました。
これ、デート……なんでしょうか?
だったら嬉しいんですけど…。


「名前は、どこか行きたいところとかあるか?」
「いえ、弦一郎先輩と一緒でしたら、どこでもいいです」
「そうか…。なら、俺の家に来るか?祖父がな、美味しい京菓子を買ってきたんだ」
「あたしが頂いてもいいんですか?」
「構わん。それに、その方が祖父も喜ぶ」
「じゃあ、お邪魔させてもらいますね」
「うむ。では、放課後に教室まで迎えに行くから待っていろ」
「はい、判りました」


話の終わりに、頭を撫でてくれた弦一郎先輩の頬は真っ赤だった。
………可愛い、です。
それにしても、弦一郎先輩のお家でお茶だなんて、本当に夢みたい。
放課後、すごくすごく待ち遠しいです。










そうして長い一日を過ごし、漸く後少しで放課後になるという英語の授業中。
隣りの席の赤也くんが、シャーペンであたしの机を小さく叩きました。
顔を向ければ、何やら真剣そうな赤也くんが視界に入ります。
…机の上の英語の教科書が逆さまなのは、いつものことです。


「あのさ、今日一日疑問だったんだけど」
「うん」
「何でそんなに機嫌良い訳?」


機嫌が良い?
理由としては弦一郎先輩のお家に行けることしか思い浮かばなくて。
思い出したら、はにかむことしか出来ませんでした。


「何だよ、その笑顔。あ、お前ついに真田副部長と…!」
「今日ね、弦一郎先輩のお家でお茶するの」
「………だけ?」
「だけってことないよ。弦一郎先輩と一緒にいられたら、あたしはそれでいいんだから」

そう赤也くんに言うと、呆れたような顔をされた。
あたし、おかしいこと言ってないよ?


「まぁ……俺がとやかく言うことじゃねぇし……。頑張れよ」
「そうだね。弦一郎先輩にずっと傍にいてもらえるように頑張るよ」
「おー」


赤也くんの返事と同時にチャイムが鳴って、授業が終わった。
やっと弦一郎先輩に会える…。


「すっげーにやけっぷり…」
「だって、久し振りだから。楽しみに決まってるでしょ?」
「お幸せでいいなー、名前は」
「赤也くんも彼女さん作ればいいよ。モテるでしょ?赤也くんは」
「俺にだって好みってのがあんだよ」
「あ、それはそうだよね」


赤也くん、モテるんだけど好みに合う人がいないみたいです。
かっこいいのに勿体ない……。


「っと、じゃあお邪魔になる前に退散するわ。今日先輩達とゲーセン行くし」
「うん。また明日ね」
「おう、じゃあな」


ぺちゃんこな鞄を持って教室から出た赤也くんの背中を見送った本の少し後。
弦一郎先輩が教室に入って来ました。
あ……クラスのみんな驚いちゃってる…。


「帰るぞ、名前」
「あ、はいっ。帰りましょ!」


みんなのこと気にしちゃってたら返事変になっちゃった…。
弦一郎先輩、変に思ってないですよね…?
弦一郎先輩が相手だから一喜一憂するなんて、絶対内緒です。










二人だけで歩く帰り道。
何だかそれすらが久し振りで、繋いでくれている手にばかり意識が行っちゃいます。


「弦一郎、先輩」
「何だ?」
「あの、あたし……」


そこまで口にして、何が言いたかったのか判らなくなってしまいました。
でも、何だかすごく甘えたいような……。


「あの、少しだけ甘えても…いいですか?」
「……構わん。それに、俺もそうして貰う方が嬉しい、からな」


弦一郎先輩の優しい笑顔を見ると、躯の中で何処かがきゅんとしました。
……幸せって、こういうなのかなぁ…。


「あたし、弦一郎先輩の彼女でいられてよかったです」
「俺も、そう思ってるぞ。……名前」


脚を止めた弦一郎先輩は、あたしの頭をいつものように撫でると、頬に手を添えてきました。
さらり、と風で弦一郎先輩の髪が揺れているのが間近で見えます。


「弦一郎……先輩…?」
「その、何だ…。……いや、何でもない。気にするな」


再び歩き始めた弦一郎先輩の頬は朝と同じで紅潮していて。
今、弦一郎先輩が何をしたかったのか少しだけ予想できたけど、黙っておくことにします。
だって、どんな風にしてくれるか楽しみだったりするから。


「弦一郎先輩、大好きですよ」
「…俺も、名前が好きだ」


視線を泳がせながらもちゃんと言ってくれる先輩を知ってるのは、あたしだけでいさせて下さいね。


(付き合い出して三ヶ月が経つ少し前)
(先輩は初めてキスしてくれました)


その時の弦一郎先輩の顔、あたしは絶対に忘れません。
だって、やっぱりすごく可愛かったから。
本人には、絶対に言えませんけど、ね。




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