立海
□やめる理由なら、幾らでもくれやる
1ページ/1ページ
所詮、あたしはただの女でしかない。
彼とは真逆で、頭もルックスもよくない(事実、成績はCばかりだし、身長は157cmで止まった)。
そうなると、何故彼女という称号を貰えたのかさっぱり判らなくなった。
愛されてるから、なんて割り切れたら楽なんだろうけど、それってどうなんだろう。
果たして、彼は本当にあたしを愛してるのか。
…なんて、柄にもなくセンチメンタルになった。
「あたしって、何なの?」
「どうした、唐突に」
「や、何となく」
脱色した髪に指を通せば、途中で引っ掛かった。
彼氏より髪が傷んでる女ってどうなのよ?
「元よりさ、あたしって世間一般でいうチャラついた女な訳でさ」
「あぁ」
「蓮二とは正反対な訳。判る?」
「まぁ、概ねはな」
「でね、思ったのよ。こんな女が蓮二の彼女であるのに意味があるのかと」
あたしがそう言えば、蓮二は黙り込んだ。
やっぱり駄目?
こんなあたしは。
「随分馬鹿なことを言うんだな、名前」
「何それ!?あたしなりの真剣な悩みだっていうのにっ!」
「だが、そうだろう?俺がお前に惹かれた時にはもうお前はその姿恰好だった。何故彼女なのかなど、愚問以外の何物でもない」
これまたさらりと、理由を言ってくれやがりましたね、この人は。
……嬉しいちゃ、嬉しいけどね。
「だが、喫煙だけは推奨しないな。躯に悪影響だ」
「蓮二って、いつもそればっかり言うよね。仕方ないじゃん。止められないんだから」
「じゃあ、子供が出来たら止めるか?」
「………はい?」
自分の耳を疑った。
今、何て言ってたの?
「……………こ、ども?」
「あぁ。俺とお前の子が出来たら、煙草、止めるか?」
「ちょっ…、ちょっと待って?何でそうなるの?」
「そうでもしないと煙草なんて止めないだろう?それに、常々名前に似た女の子が欲しいと思っていたしな」
ぐるぐると、頭をループすることば。
『俺とお前の子が出来たら、煙草、止めるか?』
なに、それ。
こども?蓮二の?
で、産むのはあたしですか?
いやいやいや。
「いみわかんない」
「そんな言い方しなくてもいいだろう?」
「っ…だってまだ一応大学生だし!」
「俺はもう就職の内定決まってるから心配無用だぞ」
「…え、どこ?」
「某大手電子機器会社だ」
「ちょーすごいとこじゃん……」
それがいつ決まってたとか、そんなのはもうどうでもいいけど、まさかこれって。
「………プロポーズ、兼ねちゃってます?」
「結婚する気のない女に子供を産んでくれなんて言うと思うのか?…名前、改めて言うぞ」
俺と、結婚してくれ。
彼の言葉と一緒に左手薬指に嵌められたエンゲージリングに涙がぼろぼろ流れた。
まさか、本気だったなんて。
「…っばかじゃないの?」
「名前がそう言うなら、馬鹿かもしれないな」
「………っ赤ちゃんは、男の子だからね!」
精一杯の最後の強がり。
本当は蓮二との子ならどっちでもいいよ、だなんて、あたしは素直じゃないから言えないけど。
「………ありがとっ…」
「あぁ。これからもよろしく、だな」
「うんっ…」
嬉し泪が止まったのは、これから大体一時間後だった。
やめる理由なら、幾らでもくれてやる
次の日、煙草とライターを思い切りゴミ箱に捨てた。
午後には蓮二に髪を黒に染め直してもらった。
これで少しはお嫁さんらしくなれた、かな。
.