立海

□この先も一緒に居られたら
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ふわり、と風が吹いた。
温かなそれに髪を流され、思わず目を閉じる。


「あったかいのう」
「そうだね。もう春かな」


あたしの膝枕の上で欠伸をしながらそう零した雅治の髪にそ、と指を通す。
珍しく結われていないそれはさらさらと落ちていく。
綺麗な、ぎんいろ。


「本当に、気持ちいいのう」
「そう、だね」


一面に広がる黄色い菜の花の中の、あたしと雅治。
自転車に二人乗りして、少し遠くまで足を伸ばせば都会の喧騒のない閑かな場所に辿り着いた。
そして偶然見付けた菜の花畑。
人気も何もない、そんな所。


「ね、今何時かな?」
「時間なんか気にせんでよか。今日は、ゆっくりするんじゃ」
「そうだね。折角天気もいいしね」


二人っきりのこの空間。
菜の花の黄色に、空の水色。
それに雅治の銀色。
たったこれだけの場所なのに、どうしようもないくらいの幸せを感じる。


「また、一緒に来ようね」
「そうじゃな。またこんな日に来たいのう」
「次はお弁当でも作ってね」
「お、名前のお弁当楽しみナリ」


あたしの下で嬉しそうに笑う雅治に釣られて笑う。
さわさわ、と菜の花が音を立てる。
緩やかな春風にまた二人して目を細めた。


「帰りたくなくなるね」
「そうじゃなあ。まだまだ、ずっといたいぜよ」


ゆるゆると眠気が引き出され、瞼が重くなる。
雅治も同じみたいで、目を閉じたっきり開く気配がない。


「……おやすみ、雅治」


雅治から返事ないけど、気持ちよさそうな顔してるから、いいかな。
あたしも少しだけ、眠ろう。
目が覚めたら、何でもない話をして。
二人で笑えたらそれだけで、いいや。



この先も一緒に居られたら


それ以上、何も望まないよ。







Don't forget 3.11.
 

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