立海

□嘘にまみれた愛を捨てて
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日頃、紳士だと言われていることは私とて判っています。
名付けたのは誰か忘れてしまいましたが、とりあえず私が言いたいことは、今ばかりは紳士でいられる気がしないということです。


「名前さん、」
「んん?これの方が可愛いかなー?」


名前さんの手に取っては見比べるという作業を見始めてまだ少ししか経っていません。
しかし、時間の問題ではないのです。
付き合い始めて半年が過ぎましたが、こういうのはやはり戸惑いが……。


「ね、やぎゅーくん。これどうかな?」
「か、可愛らしいと思いますよ」
「じゃあこれ買うねー。あ、これもいいかな?」
「名前さんならどれもお似合いですよ」
「やぎゅーくんはほんとに煽て上手だねー」


くすくすと笑いながら見上げてくださるのは本当に可愛いと思います。
ただやはりこういう時、名前さんが仁王くんの友人だということを思い出さざるをえません。


「じゃあ会計して来ちゃうからちょっと待っててもらっていい?」
「ええ、では外で待ってますね」
「うん。すぐ行くね」


名前さんがレジに向かうのを見届けて足早に外を目指します。
私、よく頑張ったと思うのですが。
これくらい普通なのでしょうか。


(ああもう可愛すぎるんですよ……)


外に出て深く呼吸しても、頭の中は名前さんばかりで。
こういうことは名前さんの可愛らしさが際立つから苦手なんですよね……。
ぐるぐると意味を成さない思考が渦巻いているときゅっ、と手にひんやりした感触を感じました。
はっ、として見れば名前さんが私を見上げていました。
それも、少し困った顔をして。


「ね、やぎゅーくんはさ、」
「……はい」
「あたしといて楽しい、のかな?」


長い睫毛が、大きな瞳が、あっという間に濡れていくのを私は止められなかった。
悲しい思いなんて、させるつもりなかったのに。


「楽しいですよ、だから、」
「やだよ、嘘なんて、やだ。あたし知ってたの。まさはるから聞いてたから」
「、何をですか」
「やぎゅーくんが女の子のお店、苦手だって。あたし、知っててわざと服買いに来たの」


こぼれ出した涙は、地面を濡らしていく。
震える名前さんの声は、尚も思っていたことを紡いで。
私が名前さんに肯定しか示さないこと。
何をしても笑顔でいたこと。
よかれと思ってしていた行為が、彼女を傷付けていたなんて。
そんなこと、一度だって考えもしなかった。


「それでわざと、やぎゅーくんの苦手なこと、したの。ほんとのこと、言ってほしかったから、だから、」


名前さんが全部言い切る前に。
そう思ったら体が自然に動いて。
泣き続ける名前さんを抱き締めていた。


「やぎゅ、くん」
「これからは思ったことは全部貴女に言います」
「ほん、とに?」
「はい。約束します」
「うれしいっ……」


まだ涙に濡れている顔を上げて、名前さんはくしゃ、と笑ってくれました。
いつもの、私が愛してる笑顔で。



嘘にまみれた愛を捨てて


ただ、これで私は私でいいということになりましたので。
何を言っても、離してなんてあげませんよ。




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