氷帝

□いとしの温もり
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部活帰りにコンビニに寄ることが、習慣になりつつある。
理由は単純明快。
小さな妹、名前の好きな菓子を買うためや。
毎日買うて帰るもんやから甘やかしすぎや、とか姉貴に言われとる。
自分かて名前が好きなキャラクターのグッズ、沢山あげとるのによう言うわなあ。


「ただいま」


家に帰ってそう小さく口にすると、リビングの方から軽い足音が近づいて来る。
その音だけで、ポーカーフェイスもただ崩れや。


「ゆーお兄ちゃん!おかえりなさい!」
「ただいまー。ええ子にしとった?」
「うん!ママのお手つだいしたよ!しゅくだいも、おわったの!」
「えらいえらい。ようやったね」


頭を撫でてやるとそれはもう嬉しそうに笑う。
ああかわええわあ…。


「ゆーお兄ちゃん、ぎゅーは?」
「手ぇ洗ったらなー。名前、姉貴帰っとる?」
「ううん。えりなお姉ちゃん、大学の…サークル?の集まりあるからおそくなるって、ママにれんらくあったよ」


……チャンスや。
姉貴がおらんかったら名前のことかわいがるだけかわいがれる。
名前が寝るまでには帰って来ないやろ。


「せやったら兄ちゃんと風呂入ろか。で、一緒に寝よな」
「うん!また絵本よんでね!」
「おん。もちろんや」


眩しいほどの笑顔に疲れが飛んでいく。
ほんま名前かわええわあ。
脚にしがみついてくるとか堪らんやろ。

そのまま名前の手を引いてリビングに向かう。
終始楽しげに学校のことを話していた名前を後ろから抱きあげてやるとからからと笑った。
なんて、平和。

その後、夜勤の親父と姉貴を欠いた食事を済ませて、ゆっくりとテレビを観てる名前にお菓子を渡してやる。
するとたちまちにぱあっ、と表情が輝きを増した。


「今日も買ってきてくれたの?ゆーお兄ちゃん」
「帰りにコンビニ寄ったついでにな。明日のおやつにしい」
「いつもありがとう。ゆーお兄ちゃんだいすきー」


ぎゅう、と抱きついてきた名前を抱き締め返しながら、ふと思った。
名前はいつまでこうして甘えて、俺に笑い掛けてくれるんやろうか。
そのうち反抗期とかになって、シカトとかされたら。
………考えただけでいやになるわ。
て、なんか親父みたいやんな。


「あ、ゆーお兄ちゃん。あとべさま元気?」
「跡部?まあ、元気やけど。なんで急に跡部なん?名前が仲ええの、ジローとか岳人やろ?」
「この前、学校帰りにぐうぜん会ったの。そしたらお車でおくってくれたし、名前にかわいいかみどめくれて、なでなでもしてくれたから。こんど会ったらもう一回お礼言いたいの」


かわいらしく笑う名前には表面上、綺麗に笑って相槌を打っておく。
…跡部のやつ、いつの間に人様の妹に手ぇ出しとんねん……!
最近やたらと名前のこと聞いてきとったんはそういうことやろ…。
跡部なんかには絶対やらん。
てか名前は嫁に出さんわ。
……ほんまに親父の思考と同じになってきとる。


「ゆーお兄ちゃん?むずかしいお顔してどうしたの?」
「なーんもないで。ほら名前、そろそろお風呂入ろうか」
「うん!ゆーお兄ちゃんとお風呂ひさしぶりー!」


無邪気に笑う名前を見て様々な思いを感じる。
穏やかさ、愛しさ、それに寂しさ。
いつかは、離れてしまうんやろうけど。
どうかもうしばらく、そばにおって。



いとしの温もり


風呂上りに不意に抱き締めてやると、くすぐったいと言いながらも腕に収まってくれとった。
あったかいなあ、ほんまに。




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