氷帝

□頭部融解
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ずきん、ずきん。

強制的に眠りから覚まされたあたしは原因の痛みを発している左側頭部を押さえた。
今日は一段とキツい気がする。
隣りで眠っている若を起こさないように薬を求めてベッドを静かに抜け出す。
明日も朝練だから、起こしたら申し訳ない。


(あった……)


戸棚にこっそり仕舞って置いた薬を見付け一安心。
中身を出して、残り僅かだと知る。
また、病院に行かないと…。
ふぅ…、と溜め息を零すと視界が明かりに照らされた。
急な出来事に肩が反射的に跳ねる。


「何、してるんですか?」


若の声が低くキッチンに広がった。
何で起きちゃったかな…。
結構注意したつもりだったんだけど……。


「起こして、ごめんね。水、飲んだら行くから先に行ってて」
「じゃあ待ちます。名前さんがいないと眠れないんで」


いつもだったら嬉しいのに。
今はそんな余裕もない。
頭が鈍く、鋭く痛みを増す。


「………薬、早く飲んで下さい」
「っ……知って、たの…?」
「当たり前ですよ。気付かないとでも思いましたか?」


声が近付く。
そして、背中から伝わる、熱。
冬の冷気に侵されかけていた躯が若の熱に浸蝕されていくのが嫌でも判る。


「貴女のこと、これだけ見てるのに気付かないことがあったら不思議ですよ」
「っ…わか、し」
「そういう訳なんで、早く薬飲んで寝直しましょう」


若の手に渡る薬をぼんやり見送る。
若の言葉か、頭痛のせいか。
頬を濡らそうとする瞳を懸命に拭う。


「はい、どうぞ」
「ん…。ありがとう」


コップに注がれた冷たい水と苦い錠剤を口に含む。
眉間に皺を寄せて嚥下すると、若が優しく頭を撫でてくれた。


「早く痛みが引くといいですね」
「うん。そう、だね」


緩く繋がれた手を引かれ、自室へと戻る。
床が冷たいのに手は温かくて、変な矛盾を感じた。
静かに部屋の扉を閉めると、ベッドに誘われる。
まだ毛布の中は温もりを残していて躯が温められていく。


「…ねむく、なってきた」
「頭痛はどうですか?」
「まだ痛むけど、直に治るから平気」


欠伸を噛み殺して、眼を閉じる。
少しして左側頭部に何か触れた。
薄く眼を開くと若が柔らかく微笑んでいた。


「早く痛みが引くよう、おまじないです」


その言葉を聞いた瞬間、痛みよりも熱が勝った気がしたのは、気のせいじゃない、よね。




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