たいとる

□空気とか(日+織)
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現世任務も滞りなく終わり、お茶でもどうだと誘われて一護の家に上がり込んで30分程度が過ぎた。


乱菊は織姫が持ってきた映画雑誌に夢中になっている。

少し前まで手持ち無沙汰にしていた冬獅郎は、目に付いた一冊の本を読み耽っていた。本、と言ってもそれはたまたま一護の部屋にあった広辞苑。

速読でも身につけているのかと問い掛けたいほどのスピードで、そのページはめくられている。あと数分もあれば、読破してしまうのではないだろうか。


「あら、七緒からだわ」


不意に乱菊の伝令神機が着信を告げる。
ぽつりと呟いて、彼女は部屋を出て行った。


「ねえ、冬獅郎くん」

「何だ?」

「ちょっと、参考までに聞いていい?」


織姫が、乱菊が席を外すのを待っていたかのようなタイミングで冬獅郎へ声をかけた。

彼は広辞苑から視線を上げ、小さく首を傾げる。


「俺に答えられることならな」


ぱた、と分厚い事典を閉じて話を聞く体勢に入る。
こういうことを自然とやってしまえる彼は、正しく“隊長”なのだろう。



「乱菊さんって、冬獅郎くんにとってどんな存在?」


唐突な質問に、冬獅郎は目をしばたたかせた。

何を考えればそんな問いが口から飛び出すのかと、尋ねようとしてやめる。
それを聞いたところで、返ってくるのは支離滅裂な回答だろうと容易に想像できたからだ。


「あのね、友達とか恋人とか仕事仲間とか…そんなのを越えた仲に見えるの。実際はどう思ってるの?」


問われて考える。

友達というには程遠く、恋人などという甘い関係ではない。


ならば彼女は、どんな存在といえるのか。



「……空気とか」


口に出してみると、意外としっくりとする。
ラブストーリーで使い古された陳腐な表現だが、何より的確に思えた。

そこにあるのが当たり前で忘れがちになるが、なくてはならないもの。


「冬獅郎くんたち、凄い。それって何だかいいね!」


にっこりと笑う織姫に曖昧な返事をして、冬獅郎は再び広辞苑を開く。

数日前に織姫から同じ質問をされた乱菊が、同様の答えを返していたとは露とも思わずに。


これが以心伝心かと、黙って様子を見ていた一護はこっそり笑みを浮かべるのだった。



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