たいとる
□写真撮ろう(銀+新)
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ざかざかと音を立てて米を洗う後ろ姿を、ぼんやりと見つめる。
割烹着を着て、調子っぱずれな鼻歌(またお通の曲だろう)を口ずさみながら、夕飯の準備をする様子は母親のようだ。
あ、俺のじゃねーよ?神楽の母ちゃんて意味だから。つまり俺の嫁さんってことだから。
口煩い押しかけ従業員が鬱陶しかったのは最初の数日だけで、今ではもうすっかり馴染んでしまった。
何年も連れ添った夫婦のように。
「あ」
突然声を上げて、新八がくるりと俺を振り返る。
見つめていたせいでバッチリ目が合った。
「あ、あー…どした?」
慌てる必要はないが、ついうろたえてしまう。
そんな俺を、新八はクスリと声も出さずに笑った。
「写真撮りましょう」
いつの間にか米を研ぎ終えていたらしい。水と米がたっぷり入った重そうな内釜を炊飯器に戻すと、蓋を閉める。
「…写真?」
「はい。あ、カメラならたまさんにお願いしました。神楽ちゃんが戻ったらみんなで撮りましょう」
濡れた手を拭きながら笑顔で俺にそう言って、新八は湯呑みと急須を用意する。
そういえば、そろそろ茶が欲しいと思っていたところだ。
こんなところが熟年夫婦のようでにやける。
神楽がいたら唾でも吐き出していたかもしれない。
いなくてよかった。いや、マジで。
「神楽ちゃんの写真、星海坊主さんに送りたくて。せっかくだからみんなで…ダメですか?」
定期的に送られて来る神楽の父親からの手紙。
稀に同封される写真を、神楽が喜んでいたのは知っていた。あいつは隠してるつもりみたいだったが、いつもよりテンション上がりすぎでバレバレだ。
「いや。いいんでねーの?」
頷いて言えば、新八は嬉しそうに笑った。
よくよく考えてみれば、写真は初めてだ。そう思うと、少し照れ臭くもある。
神楽の帰宅が待ち遠しいのは、今日が最初で最後だろう。
喜ぶ顔が浮かんで、自然と俺も笑っていた。
後日、俺は背の低い箪笥の上に今までなかったはずの物を見つけた。
中央に神楽と定春、右側に俺、左側に新八。
人生初の家族写真。
―――銀さん写真、初めてじゃなかったらすみません…
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