たいとる
□初めまして(銀+新)
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さすがに飲み過ぎた。
ガンガン痛む頭と重たい胃を抱えて、ふらふらと歩く。
朝日だか昼日だか、高く昇って地上に降り注ぐ太陽がうざい。
帰り着けるだろうか。
家までの距離が、途方もなく長く感じる。
酒臭い息を大量に吐き出して、立ち止まったそのときだ。
どんっ
「わっ」
「ぐへ」
背中に衝撃を受けた。
「す、すみません!」
ぶつかってきた相手が慌てて、俺の正面に回り込んでペコリと頭を下げる。瞬間、その黒髪から甘ったるい香の匂いが漂ってきた。
顔を上げたのは、その匂いにはまるで不釣り合いな眼鏡をかけた少年で。
「大丈夫ですか?僕、ちょっとよそ見してて…」
「…あー、へっき」
鈍臭そうなガキ。それが第一印象。
目の前のガキは優しく微笑んで、「よかった」と囁くように言った。
その笑顔から、目が離せなくなる。
少年がいなくなった後も、俺はそこから動けなかった。
漂ってきたあの匂い。
覚えのあるそれは、以前利用したことがある店の連中が付けていた香だ。
「…遊郭通いなんざ、するタイプにゃ見えねーけど」
名前を聞けばよかった。
初対面の相手の笑顔が忘れられないなんざ、どこの中学生だか。
我ながら呆れる。
店に行けば、また擦れ違うくらいは出来るだろうか。
匂いが移るほど通っているようだし、街中よりも確実に会えそうだ。
そして数日後、訪れた遊郭で俺達は再会することになる。
「はじめまして、坂田様。新八と申します」
そう言って深々と頭を下げたのは、遊女と同じ笑顔を作った少年だった。
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