short sentence
□ただいま
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「日番谷隊長!」
「松本副隊長!」
全ての戦いを終えて戻って来た二人に、隊員達が駆け寄ってくる。
ふと、一人の隊員が辛そうに顔を顰めた。
怪我をしているのかと、日番谷が尋ねる。
「いえ、怪我をしているのは私ではなく…」
隊員が示したのは、渇いて黒く固まってしまった腹部と、まだ新しい羽織に滲んだ脇腹の、彼が流した赤い血の跡。
「…これか。これなら大したことはない。心配するな」
ふ、と苦笑して言うが、隊員の表情は晴れない。
「後で卯ノ花に診てもらう。だからそんな顔すんな」
「……はい…」
日番谷の一歩後ろに控えて様子を見ている乱菊には、隊員達の気持ちが嫌というほど分かる。
「ほんと、隊長がいなくなった後、大変だったんですよー」
重くなりかけた空気を払拭するように、殊更明るい声で乱菊は言う。
大変だった、という言葉に日番谷が反応する。
やはり彼は、どこまでも“隊長”なのだ。
自分の怪我よりも隊員達の心配をする。
まず隊員達のこと、次に仕事のこと、虚のこと、家族のこと、友人のこと……そしてようやく、彼自身のこと。
日番谷自身の優先順位は、誰よりも何よりも下で。
だから、彼を守ろうとするのは骨が折れる。
「十番隊廃絶の危機、だったんですよ?あたし達の斬魄刀も取り上げられちゃうし、蟄居を申し付けられて外に出られないし…」
ぎゅう、と眉間の皺が深くなる。
きっと、自分を責めているのだろう。
「……すまない…」
小さな謝罪は、全隊員に届いた。
「悪いと思ってるなら、今度から勝手にいなくなるのはやめて下さい!」
無席の隊員が、縋るように怒鳴る。
全十番隊隊員が、揃いも揃って同じ顔をしている。怒りと、悲しみと、苦しみが入り交じった、複雑な表情を。
「ねえ、隊長?一護はいいことを言いましたよね」
背後から乱菊が同意を求めれば、日番谷は首を傾げた。
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