short sentence

□この声が届いたなら
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小さく吐いた溜息は、白く凍って、消える。

こんな風に、あたしの想いも消えていくのかな。



こんな感傷、あたしらしくないけど。




付けっぱなしのテレビからは、絶えず音と光が流れてきて。


うるさいと思いながらも、それを消すことは出来ない。




「あんな人気者になっちゃうなんて、思わないじゃない…」


あたし一人の部屋に流れるのは、テレビの音楽だけ。


呟いても、その音に掻き消されるあたしの声は、さっきの溜息みたい。




テレビに映るのは、今や知らない人はいないとさえ言われるほどの、人気俳優。


あたしの、年下の幼なじみ。





あたしを追いかけるように、彼は運動部の様々な勧誘を蹴って、演劇部に入部した。


元々の才能もあったのだろうと、当時の部長は言っていた。



彼が入部して半年後の高文連演劇大会。

たまたま来ていたどこかのプロダクションの数人が、見初めてしまった。




頑なに断っていた彼が、あの世界に入ったのはあたしの一言が原因。


『絶対売れるって言ってくれてるんだし、やってみたら?』




離れるのがこんなに切ないなんて、思わなかった。


もう、あたしの声は届かない。

届かないところへ、行ってしまった。




あたしのせいで。





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