short story
□お前の隣で(鋼/エド)
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責めてくれたほうが、どんなに楽か知れないのに。オレに向けられるのは、慰めの言葉ばかりで。
遠くに響く泣き声と、オレへの励ましの言葉。
一番失いたくなかったものが、この手をすり抜けていった。
賢者の石を探していたのも、国家錬金術師になったのも、全部あいつのためだった。アルの体を元に戻すためだった。
アルのため?違う。ただのエゴだ。その大義名分が、自分を保つために必要だった。
目的を失ってしまった今、オレは一体どうすればいいんだろう。
一週間が過ぎても、オレは立ち直れないでいた。
あの時、傷の男(スカー)と戦った日。
オレに向けられた攻撃を喰らったのはアルで。オレを庇ったばかりに、血印も崩れて。
『…兄さん…ごめんね。ボク、もうダメみたい…』
諦めにも似た、アルの声。
『兄さん…一つだけ、お願いがあるんだ……絶対に叶えて?ボクが…ボクが、このままいなくなったら…』
あいつは、何を言った?
最期の願いに、何と言った?
確かに聞いたはずなのに、どうしても思い出すことができない。
あの日、あの戦いでオレもぼろぼろになって、アルがいなくなってすぐに駆け付けて来た軍部の人たちに助けられた。
大佐や、ホークアイ中尉の姿を見て気絶したらしく、気がつけばオレは病院のベッドの上にいた。
アルがいないことが信じられなくて。信じたくなくて。
大佐やアームストロング少佐の言葉も聞かずに、ただ暴れて。
それだけの迷惑をかけたのに、誰もオレを叱ってはくれなかった。
翌日には、話を聞いたらしいウィンリィやピナコばっちゃんが来た。
ウィンリィは泣いてばっかりだった。ばっちゃんは仕事があるからと、その日の最終便でリゼンブールに帰っていった。
さっきの面会人の中にも、何人か懐かしい顔を見た気がする。
「……鋼の。また食べていないのか…」
大佐が病室に入って来て、そう言った。
後ろにはホークアイ中尉も控えている。仕事の合間を見て来てくれたのだろう。
大佐たちの視線は、ベッド脇の手も付けずに放置してある食事に向けられている。
どうしても食べる気にならなくて、そのままにしておいたもの。作ってくれた人には悪いが、全く食べたくなかった。
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