short story
□あいのかたち(植木/佐野犬)
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例えば、植木くんと付き合い出したと言った小林さんだとか。
例えば、よくドラマであるような体から始まる関係だとか。
そんなことが許されるはずはないと思っていた。ましてや、両思いになった瞬間に体を繋げる、など。
けれどそういうものほどこの身に降り懸かってきたりするものだ。今まさにそれは現実のものとなり、目の前で繰り広げられていた。
僕の前に正座して頭を下げているのは…いや、その表現は正確じゃない。
訂正。
僕の前で土下座をしているのは、僕が選んだバトルに参加する中学生。温泉が好きで、バトルセンスがずば抜けていることを除けば、ごく普通の中学三年生だ。
名前は佐野清一郎くん。手ぬぐいをバンダナのように頭に巻き、浴衣を好んで身につけている。左目の辺りにある彼らしい理由で負った火傷は、彼の特徴のひとつだ。プロレス好きだという趣味が高じてか、彼のバトルセンスは群を抜いていた。
そんな彼が、僕に頭を下げている。トレードマークの手ぬぐいも、襟を左前に合わせた浴衣もない生まれたままの姿で、ベッドの上に座る僕にあらゆる謝罪の言葉を並べて許しを乞うている。
そのベッドにいる僕も、佐野君と同じだった。愛用の帽子も服も、部屋の隅に放り出されている。
体中を苛む鈍痛に、思わず溜め息をつく。
佐野君はそれに、面白いほど大袈裟にビクリと肩をはね、もう一度「すまん!」と頭を床に擦り付けて謝った。
さて、どうやって宥めるべきか。
酷く落ち込んで自分を責めている彼だが、僕はさほど気にしていないのだ。
いや、気にしていないというのは少々語弊がある。傷付いていない。そう、僕は彼が思うほど傷付いてなどいない。
あまりに突然で、加えて彼がいつもの佐野君と違って、心がついていかなかっただけだ。
だから、彼が自分を責める必要などない。
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