たいとる

□いい度胸だね(日乱)
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昼休みはとうに終わって、既に二時間が経過している。


陽光が窓から差し込み、風が花の香りを運ぶ。
暖かな春の陽気。遠くに鶯の鳴き声が聞こえた。

机に乗せた書類が数枚、窓から入った風に浚われて、ひらひらと床に落ちた。


急ぎの書類全てに目を通した後、ようやく日番谷は立ち上がる。
ぐっと伸びをして肩と首を回しながら、落ちた書類を拾う。

顔を上げた先には、ソファに寝転んだ副官の姿。昼食を終えた後に横になってから、彼女は一度も目を覚まさない。

昼休みが終わる頃に一度起こしたのだが、生返事のみでその目が開かれることはなかった。


諦めの溜息をつきながら拾った書類に目をやり、日番谷は眉間の皺を深くした。
それから松本の机にそびえ立つ紙の山に向かうと、急ぎの書類とそうでないものに分別し、急ぎのものを自分の机に運ぶ。

そして、期限が迫っているものを処理し始めた。



ものの30分で処理を終えると、彼は再び立ち上がる。

ソファの松本の枕元へ歩み寄り、両手いっぱいに抱えた不要な紙の束をその顔の上に落とした。


「んぎゃあっ!ぶはっ…な、何?!」


危うく紙の海に溺れるところだった松本は、慌てて起き上がる。
バサバサと落ちる紙の山と、すぐ横に立つ上司を見て、何とか状況を理解した。


「隊長、危ないじゃないですか!常夏のリゾートにいたのに雪崩に遭っちゃいましたよ」

「テメーの夢の話なんざ聞いてねえよ。いいからさっさと仕事しろ」

「えー、まだ昼休みですよ?寝かせて下さいよ」


ソファから邪魔な紙を床に落とし、再びごろんと横になる。

かちり、と小さな鍔鳴りが聞こえた。


「これだけ惰眠を貪ったくせに、まだ寝る気か?いい度胸だな」

「謝りますからその手にある氷輪丸を抜くのはやめて下さい」

「その態度のどこが謝ってるんだ…」


慣れ親しんだ抜刀の微かな音に、松本は文字通り飛び起きた。


「望み通り寝かせてやるよ…優しい上司に感謝しろ、松本」

「すみませんごめんなさい許して下さい!ほら、仕事しましょう?ね、隊長!」

「問答無用…往生しやがれ!霜天に坐せ、氷輪丸」

「きゃーっ!!」




執務室から漏れる絶対零度の空気に、近くにいた隊士達は無言で手を合わせた。




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