たいとる

□さもありなん(P4/主花)
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付き合い始めて半年足らずで、あいつは両親の待つ都会へと帰って行った。1年という期間限定の転校だったわけだが。

電話は水曜と土曜の週2回、会えるのは長期休暇のとき。2人でそう話し合って決めた。
それでも、淋しさは募る。


手を伸ばせば触れられる距離にいたのに、今は電波越しにしか声も届かない。





はずだった。



長期休暇と約束した。夏休みはまだ遠く、ゴールデンウィークはあいつの身内に不幸があったとかで会えずに終わった。

それなのに。



何故、いないはずの男がここにいるのか。



にこにこと笑う姿は、忘れもしない、悪戯が成功したときの顔だ。
少し髪が伸びた。それ以外は、何も変わらない。

夢にさえ現れてはくれなかった、ひたすら恋い焦がれたあいつ。


「突然来てごめん。約束破っちゃった」


そう言って、目の前の男は俺を抱き締めた。
どこか安心する、優しい匂い。暖かい腕。

懐かしいというにはまだ時は経っていないけれど、それでもただ懐かしく思う。


「会いたかったんだ、どうしても。怒ってる?」

「…びっくりした。けど、怒ってないよ。嬉しい」

「本当?陽介も、俺に会えなくて淋しかった?」


黙り込んでしまったのは、ご愛嬌というやつだ。
いくら俺でも、そうそう素直には答えきれない。


「陽介?」

「……淋しかった…」


呟くように答えれば、満足げに笑う。
ちゅ、と軽いリップ音と共に、薄い唇が俺のそれに触れた。


「連絡くらいしろよな」

「充電切れちゃって」


悪びれる様子もない上機嫌なこいつに、思わず脱力する。
こういう奴なんだ。

初めて会ったときから、こいつは我が道を突き進んでいた。
思い立ったが吉日、やったもん勝ち。そんな言葉がよく似合う。


「…いつも突拍子もないことばっかで振り回されてるけど…そんなお前も好きなんだよな、俺」

「さもありなん」

「……お前って、時々古い言葉使うよな」

「そうか?」

「そうだよ…」


更に脱力させられたが、折角来てくれたのだから、こんなところで立ち話で終わらせるなんて勿体ない。


「…どっか行こうか?」

「陽介の家でいいよ。2人でいたいし」

「そ、そうか」

「ついでに携帯も充電させて」

「…おう」



どっちがついでだ、と聞きたかったが、さすがにやめた。

待ち焦がれた恋人とのひと時、無粋な問い掛けなんかいらない。


話したいことが、たくさんあるんだ。

なあ、相棒?





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