たいとる

□根性だな(ハナタジ)
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田島が花井に告白してひと月。もっと言えば、告白した瞬間にフラれてそれでも「俺、諦めないかんな!ゲンミツに」と猛アタックを始めてから1ヶ月。


部活終わりの部室で、日誌を書く花井の背中に、田島は何度も声を投げ掛けていた。

下らない世間話、お得意の下ネタ、デートの誘い。その様々な話に、花井は気のない相槌を打つだけだった。

そして最後に、一日の締め括りだと言わんばかりの気合いを込めた一言。


「好きだぜ、花井!明日こそ、俺のこと好きになってくれよなっ」


この告白に対し、花井が「はいはい」と流して終わるのが、いつもの光景だった。



ところが、今日だけは勝手が違う。

走らせていたペンを止めて、西浦のスーパースターからの愛を一身に受けているキャプテンが、返答に困っている。

意図せず2人の成り行きを見守っていた部員達は、その様子に首を傾げた。


「花井、どうかしたー?」


空気が読めているのかいないのか、水谷が花井の顔を覗き込みながら問い掛ける。


「うわわ、顔真っ赤!」


叫んだ瞬間、水谷は日誌で頭を殴られた。
照れ隠しにも見える行動。
振り返った彼は、確かに真っ赤だった。顔といわず、耳や首まで。

この反応は、まさか。


「…花井、まさか…」

「言うな、阿部…俺だって信じらんねーんだ」


当事者の田島は、思わぬ反応にキョトンと佇むだけだった。今まで臆面もなく愛を伝えていた男と同一人物だとは思えない。


「…はない?」


田島の声に、花井は軽い溜息をつくと、がりがりと頭を掻いた。


「あーもー……俺の負けだ」

「は?」

「好きになっちまった、田島のこと」


ゆっくりと声が脳へ染み込んでいく。
言われた台詞の意味を理解した瞬間、田島はパァッと明るく笑った。


「本当だな?ちゃんと聞いたぞ、俺!今更ウソって言っても遅いかんなっ」

「言わねーよ…」


ふ、と滲み出るような微笑みで、花井は頷く。


「田島、君…よかった、ね」

「おう、すっげー嬉しい!本当に花井が好きになってくれるなんてさ。根性だな、ゲンミツに!」

「う、うん…?」


よく分かっていないらしい三橋を置き去りに、田島は花井に飛びついた。


「根性?そ、か…根性、なんだ…お、俺も頑張ろ」


ぐっと拳を握って決意する三橋に、隣にいた泉が首を傾げた。


もう一つの恋愛事情に部員達が巻き込まれるまで、あと僅か。






続きません。



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