たいとる

□あー、暇(日乱)
1ページ/1ページ


現世が浮かれている時期、つまり年末年始や長い休みの頃だが、死神の仕事は増える。人間というものは、地に足が付いていないと呆気なくその命を散らしてしまう。

こんな仕事をしていなければ、馬鹿なことを、と呆れることもできるのだが。


世間はゴールデンウィークとやらで旅行や祭りに繰り出している。
そして、死神である俺達は浮かれ過ぎた人間達の尻拭いに奔走する羽目に。

こういう時期は虚も多く出没する。


部下達へ指示を出しながら、俺達は事務処理に追われていた。



くあ、とでかい口を開いて欠伸をするのは、ソファに踏ん反り返った十番隊副隊長の職にあるはずの女。


「あー、暇」

「それは目の前の書類全部片付けてから言いやがれ」

「えー?」

「えーじゃねえ、仕事しろ給料泥棒」


殺意を覚えた俺に罪はないはずだ。

この忙しいときに暇だと宣えるこの女には、眩暈さえ感じる。
頭痛までしてきやがった。

夏にもなっていないのにこの暑さ。それにさえ辟易しているというのに。


「冷たいお茶、入れますね」

「…だから仕事しろって」

「しますよー。お茶入れたら」

「本当かよ…」


だったら俺の目の前にある山積みの書類は何だ。
俺の決裁が必要なのは既に終わり、これは松本の机にあった分だ。

溜息を零したときだった。
外から部下の声が聞こえた。


「七席の竹添です。日番谷隊長は御在室でしょうか?」

「入れ」

「失礼致します。十二番隊より報告書を預かって参りました」

「そうか。ご苦労だったな」


竹添が差し出す書類の束を受け取ろうと、立ち上がる。


瞬間。


視界がぐるん、と回転し、全身の力が抜けた。

倒れる、とそう思ったときには既に遅く、間近で竹添と松本の声を聞きながら、俺の意識は闇に落ちた。





気がつけばそこは四番隊の救護室で、俺は白いベッドに寝かされていた。

窓の外は夜の闇。月が存在を主張している。


「俺は…」

「倒れたんですよ。疲労と暑気中りだろうってことでした」

「…そうか。すまなかったな」


隣に佇む松本の声。安堵が滲む声音に、俺は素直に失態を謝る。


「仕事は…」

「今日の分は終わりました」

「松本が終わらせたのか」

「残ってたのは、ほとんど私の仕事ですから」


少しだけ眉を下げて笑う。


「本当は、倒れる前に休ませたかったんですけど…隊長、我慢強いにも程がありますよ」


誰のせいだ、という言葉を飲み込んで、それでも彼女を睨んでやる。
追い詰められなければ仕事をしない松本には呆れるが、彼女は彼女なりに俺を気遣ってくれているらしい。


「明日は非番にしましたから、ゆっくり休んでください」

「何言ってんだ。この忙しいのに、そんな余裕があるわけないだろ」

「ちゃんと席官と相談しました。明日は隊長が、暇を持て余す番ですよ」


にこりと笑って、俺の意見すら聞かずに告げる。

こんなとき、何かとサボってばかりいるこいつが副官でよかったと思う。
何だかんだやりつつも、いいコンビかもしれないと思う。


「仕方ねえな」と答えると、松本は満足げに頷いた。




_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ