短編

□新八
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「帰っていいか」

『ちょい待ちや。来たばっかやんか。何か注文してけやコラ』




タカチンが一目惚れした相手が働いている"くの一カフェ"に来た僕と銀さん。
今日もあの娘はいた。


テーブルにつき「あの人ですよ」と指をさす僕。銀さんはそれを追うと、明らかにモチベーションが下がったような顔をした。







「なんだよ。なんなんだよ。ほんとにコイツなのか?」

『人を指さしたらあかんやろ。さっさと注文せぇや』


―パシン!!



「メニューを叩きつけないでくれます?一応、ここ萌え系ですよね?一匹、萎え系が紛れこんでるんですけど」

『盛りの娘を捕まえて萎え系ってなんやねん。ぶっ殺されたいんかい』

「……」



タカチンが今この場にいなくて本当によかった。



一目惚れした娘を思い浮かべ愛おしそうに話すタカチンの顔が僕の頭の中に浮かんだ。









「なんつーか、さ…こう…萌え系っていうふうに現すと生々しいけどよ、彼女はこう…もっと透明感があるような…この世の黒い部分を取り除いたような純粋な娘だよな。正義感が強いっつーか…」

「そうだね」





タカチンの思いをぶち折らないよう、よく知りもしない娘の内情を想像し夢を膨らませるタカチンに同調した。


でも確かに、タカチンの言った通り、あの女の子は曲がった事が嫌いで、まっすぐ生きている女の子なんだ、と初対面からも感じとれた。悪い子ではない。


だがタカチンはその部分も確かに惚れた要因になっただろうが、彼女の外見に惚れたんだと思う。萌え設定という事で彼女の服装もそれ系で、タカチンは彼女の性格もそれなりに妄想していたのだ。
そしてもう一つ。それはギャップだ。萌え系なのにバリバリの関西弁。男勝りな正義感。男は女の子のギャップに弱い。


しかしどうだろう。今のこの子はそれを通り越して関西のおばさんみたいだなんて。
しかもかなり気が強そうだ。







「なんでよりによって」

「銀さん、知り合いだったんですか?」

「知り合いじゃねーよ別に。あやうく俺もカモにされそうになっただけだ」

「カモ?」

「遊女だよ。もとだけど」

『取っ手つけんな!!』

「将来の夢はなんですか」

『花魁です。』

「ちょっとは言い淀めよ」







花魁んんんん!?純粋さもへったくれもねェェェ!!
タカチンンンンン!!





「最近どーよ?つーかまだ続いてたんだこの店。やっぱオカマバーとか萌えカフェとかがお前に合ってんじゃね?」

『まとまりあらへんがな。私の事バカにしとるやろ』

「俺ァお前のためを思って言ってんだよ。いい若者がフラフラしてちゃいかんよやっぱ。花魁なんてどうせ客とれねーんだからお前はこの辺で腰を落ち着けた方がいいと思うがね」

『こんなとこ落ち着くか!!24時間、鳥肌が立つわ!!』

「お前ね、いい加減流れに身を任せてみろよ。遊女の時より続いてんだろ?そういう事だよ」

『嫌や認めん!!』

「ガキ」






オカマバー…。なんか…色々と残念な人なんだな。
どうするんだ。どうすればいいんだ。言った方がいいのか、タカチンに。



いや何を迷う事がある。タカチンにとって彼女は空想の中のお姫様みたいなもんだ。こんな現実的な部分を知ったら、きっと傷つくぞ。








「…」







…この話はなかった事にしよう。今ならまだそれができる。








「あ、そういや新八。お前タカチンとこの女くっつけてーんだろ?」

「え!?」

『は?』

「あ、いいこと考えたぞ。お前もう結婚しちまえ。仕事じゃなくて男のもとに落ち着きゃいーんだよ。なんだかんだ言って女の一番の幸せは結婚だろ」







結婚ンンンン!?なんか話が飛躍してるぅぅぅ!!








『…それも一つのテやな…』






納得したァァァァ!!

           
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